島根大学・寧夏大学国際共同研究所日本側事務局 2010年11月 発行  

 2008年3月に島根大学・寧夏大学国際共同研究所研究プロジェクトに参加し、現在までに5回の現地調査と研究打ち合わせを実施しました。私は反芻家畜の飼養学を専門としております。畜産学分野の研究カウンターパートである、寧夏大学西部生態研究センターの宋乃平教授、寧夏大学農学院の閻宏教授の協力により、中部乾燥帯と引黄灌区の畜産農家、乳牛飼養公司、肉牛肥育場、家畜改良センターの視察および、寧夏における畜産研究の動向について専門家から説明をしていただきました。2010年9月に訪問した銀川市近郊(平吉堡)の乳牛飼養施設には圧倒されました。約5000頭の泌乳牛が施設内に収容されており、その殆どが1乳期(305日)に2万キロの乳を生産する"スーパーカウ"。搾乳は1日3回(ちなみに日本は1日2回)で、産次数、乳期と泌乳能力に応じて完全飼料(TMR)が設計されておりました。このスケールの飼養施設は日本には存在しません。それでも、寧夏のミルク需要量は自治区内で充足できていないとの事でした。宋教授に案内していただいた小規模乳牛農家との差異に驚き、「まだ寧夏の畜産業の実態について把握できていない」と実感いたしました。

 家畜の生産成績に及ぼす寄与率は、育種が25%、飼養が50%、環境が25%といわれております。日本と同様に、寧夏で重要視されているのが家畜の改良(育種)部門です。草原畜産の頃から、寧夏では「夏壮秋肥冬痩春死」と厳しい自然環境に適応した在来種が家畜生産を担ってきました。高位生産を目指すあまり、過度の育種が進行し、在来品種の消滅が危惧されます。また、封山禁牧政策のために、現在、緬山羊の放牧飼養は禁止されていますが、伝統的な放牧による家畜管理技術がすたれるのも懸念されます。現在の日本の畜産は、飼料基盤が極めて脆弱な「加工型畜産」ですが、寧夏の畜産が目指すゴールとは思いません。適切な家畜飼養技術に関する研究は、土地利用、環境保全、地域社会と政策に密接に関連する課題です。畜産技術を専門とする私には、政策の提言を行う能力はありません。しかし、寧夏大学農学院の研究パートナーから提示された現地固有の課題について、共同研究を進めることにより、地域の人々の役に立つ成果が挙げられるのではないかと思っております。

 2008年度に採択された、日本学術振興会「アジア・アフリカ学術基盤形成事業」によって、2010年7月15日から10月15日までの3ヵ月間、寧夏大学農学院の徐暁鋒講師を畜産学研究室に招聘いたしました。徐氏は梅雨明けに来日し、記録的猛暑となった夏季を過ごし、過ごし易くなった季節に帰国することとなりました。徐氏の専門は乳用牛の栄養管理ですが、滞在中は基礎的実験(in vitro試験)を担当していただきました。副農学院長の曹兵教授が推薦したとおり、徐氏の仕事は速く、集中して原稿作成をする能力は大いに評価できるものでした。農学院の動物科学系には7名の教師が在籍し、それぞれ異なる専門研究を実施しておられます。徐氏の短期招聘を契機とし、畜産分野の共同研究をさらに推進すると共に、他の農学分野の共同研究も含めて島根大学と寧夏大学との研究交流を触媒したいと考えております。

2010年11月 島根大学・寧夏大学国際共同研究所副所長 一戸俊義




■アジア・アフリカ学術基盤形成事業 日中国際学術セミナー 開催
 島根大学と寧夏大学・寧夏医科大学で実施しているプロジェクト「アジア・アフリカ学術基盤形成事業」の一環で、平成22年度日中国際学術セミナーを開催しました。テーマを「日中条件不利地域の持続可能な発展」とし、中国側は寧夏大学、寧夏医科大学、蘭州大学、西南大学からの参加がありました。セミナーでは、日中研究者による研究成果の発表、条件不利地域の農業・農村開発に関して、農村・農林畜業生産・資源管理の社会・経済および技術に関する課題とその解決方法、および生活習慣病・公衆衛生の課題とその解決方法について活発な議論が行われました。セミナーの前2日間にはエクスカーションが行われ、雲南市や奥出雲町、飯南町などで日本の中山間地域の取組みについて見学・体験を行いました。

 【開催期間】2010年9月29日(水)~10月2日(日)〔4日間〕
 【開催場所】島根県民会館
 【 テーマ 】「日中条件不利地域における持続可能な発展」

  


セミナー詳細は,アジア・アフリカ学術基盤形成事業のホームページをご覧下さい。


■島根大学教員による寧夏現地調査が行われました
 2010年8月下旬~9月上旬、島根大学教員及び大学院生計11名が寧夏を訪れ、現地調査を行いました。調査内容、調査地によって5組に分かれ、それぞれ彭陽県や塩池県を訪れたり、寧夏大学教員と面会し、今後の共同研究について協議を行ったりしました。

1組 米康充 CP:杜霊通
(8/21~25)
【研究テーマ】リモートセンシングを用いた退耕還林モニタリング
【調査地】彭陽県
2組 谷口憲治、劉海涛、王瑋 CP:王国慶、高石鋼、馬麗
(9/2~7)
【研究テーマ】中国農村小額金融の機能と展開基盤に関する研究
【調査地】塩池県、永寧県
3組 一戸俊義 CP:閻宏、王玲
(9/5~9)
【研究テーマ】クコ加工残渣のメンヨウ飼料化に関する研究
【調査地】銀川市
4組 井口隆史、伊藤勝久、木原康孝、桒畑恭介、王瑋 CP:高桂英、王国慶、王広金
(9/3~12)
【研究テーマ】
 中国西北部農村の持続可能な発展に関する研究(井口)
 中国農村におけるソーシャル・キャピタルの研究(伊藤)
 中国西北部における砂漠化防止のための水文学的手法の開発に関する研究(木原)
【調査地】彭陽県
5組 小林伸雄、足立文彦
(9/8~11)
【研究テーマ】寧夏回族自治区における地域特産作物の栽培・育種研究に関する基礎調査
【調査地】銀川市


■アジア・アフリカ学術基盤形成事業 2010年度短期若手研究者派遣
 アジア・アフリカ学術基盤形成事業による短期若手研究者派遣対象者に決定した寧夏大学の徐暁峰教員が、島根大学物資源科学部農業生産学科・動物生産学研究室(一戸俊義教授受入)で研修を行いました。期間中、島根大学での基礎的実験に加え、出雲市にある島根県畜産技術センターでの肉用牛の実験の立会い等を行いました。

氏名・所属 徐 暁鋒 寧夏大学農学院 講師
受入期間 2010年7月15日~2010年10月15日
研究課題 反芻胃内における飼料分解様相および反芻胃内微生物生産量の解析
島根大学における
研究概要
寧夏の給与飼料サンプルを供試し、自由摂取量、有機物消化率、代謝エネルギー含量の推定を行った。冬期における典型的飼料配合を設定、寧夏在来メンヨウ(灘羊)の妊娠期と泌乳期における代謝エネルギーおよびタンパク質要求量に対する充足率について検討した。試験成果は、日本緬羊研究会誌第47号に掲載予定。




■寧夏大学外国語学院日本語科の4年生13名が島根を訪問

 2010年8月19日~26日、寧夏大学外国語学院日本語科の学生13名と引率者孫建軍党総支書記が、島根県の民間団体である『日中友好しまね』の招きにより訪日しました。この訪問は、今年で14回目となった島根県民交流団の寧夏訪問の際、通訳等を行った学生を島根県に招くという趣旨で毎年行われているものです。 一行は滞在期間中、県や市、島根大学を表敬訪問したり、ホームステイを通して日本人の生活に触れたりしました。
訪問に参加した学生、馬婷さんの寄稿があります。






■寧夏大学外国語学院日本語科:クラレケミカル(株)から日本語教材が贈られました

 寧夏・石嘴山市に可楽麗化学(寧夏)環境化工有限公司を持つクラレケミカル株式会社より、寧夏大学外国語学院日本語科に日本語教育用書籍や辞書、映像教材等が贈られ、9月27日に寧夏大学外国語学院にて記念式典が行われました。 クラレケミカル株式会社からは大﨑章弘総経理、郭聖力総務部長が出席し、教材寄贈の説明等がなされました。式典に出席した学生らは、贈られた図書にさっそく目を通し、積極的に日本に関する質問等を投げかけていました。寄贈された教材は、今後の授業で活用される予定です。










第2回 呉忠市

 呉忠市は銀川市の南に位置し、利通区(市中心区)及び二県一市一区(塩池県、同心県、青銅峡市、紅寺堡区)を管轄しています。

◆◆歴 史◆◆
旧石器時代 古代人類が生活
秦代 富平県が設置され、灌漑農業を始める
明代 洪武初年
(1368~1398年)
霊州十三屯のうちの一つで、屯長が呉忠という名前だったため呉忠堡と名付けられる
1950年 寧夏省に呉忠市を設置
1954年 寧夏と甘粛が合併し、甘粛省呉忠回族自治州となる
1958年 寧夏回族自治区が成立。呉忠市となる
1998年 市中心部に利通区を設置
呉忠市発表データ(2009年)
面積 20,700㎢
総人口 137.71万人
回族人口 70.61万人
(総人口の51%)
全市GDP 185.9億元
都市住民一人当たりの
年間可処分所得
12,649元
農民一人当たりの年間純収入 4390.7元
全社会固定資産投資 165.7億元
地方財政一般予算収入 17.59億元

◆◆地理的状況◆◆
 銀川から60km、銀川河東空港から40km南に位置しする。包蘭・中宝・大古・中太鉄道が通り、最寄の青銅峡駅までは20km、国道も整備され、交通至便である。
 自然環境としては、湿地・湖沼が51箇所あり、緑化プロジェクトも基本的に完成し、市区緑地面積は3.1万ムーとなった。都市緑地率は36.5%、緑化被覆率は38.5%である。

◆◆気 候◆◆
 温帯大陸性半干ばつ気候に属し、四季がはっきり分かれ、昼夜の温度差が大きい。年平均日照時間は2250~3100時間、年平均太陽総輻射量は6000兆ジュール/㎡である。

◆◆主な産業◆◆
 農業:水稲、小麦、トウモロコシ、穀物、畜産品(特に灘羊)、果物、漢方薬(特に甘草)
 工業:エネルギー、電力、治金化工、建築健在、機械等
※太陽山エネルギー化学工業団地、青銅峡新材料団地等の工業団地が有名

◆◆主な資源◆◆
 ・石炭、石灰岩、白雲岩などの鉱産物資源(30種類以上)
 ・開発鉱山は24箇所

主な資源埋蔵量
 ●石炭・・・・・・64.8億トン
 ●天然ガス・・・・8000億㎥
 ●石油・・・・・・2.5億トン
 ●石灰岩・・・・・49億トン余り
 ●治鎂白雲岩・・・23.7億トン
 ●石膏・・・・・・127億トン




■私と美しい島根      *馬 婷(寧夏大学外国語学院日本語科4年生)

清水寺にて(左が馬さん)
 時間の経つのは早いものです。友好訪問を終えて帰国してから、もう三か月が経ちました。寧夏は最近ますます寒くなり、日本の暑さが少し懐かしいです。今回の訪問では、いろいろな感想を持ちました。この場をお借りして、それを書きたいです。
 8月19日、私達が乗った飛行機は関西空港に着陸しました。空港を出ると、すぐ中国とは違う感じがしました。湿気が多いからです。乾燥した地域から来た私にとって、少し辛かったです。「ああ、今本当に日本にいるのかな」と皆は信じられない様子でした。それから、島根県民団の方が迎えに来てくださったバスで島根県に出発しました。途中、綺麗な景色がいっぱいありました。整然とした町、連なっている青い山、静かな田舎、どれも私の目を引き付けてやみませんでした。
 滞在期間中、島根県民団の皆様にご案内していただき、島根各地を見学しました。出雲大社と清水寺に参った時、突然、信仰があることは素晴らしいことだと思いました。それに、海辺と水族館の体験は私と同じく内陸に住んでいるクラスメート達にとって、とても新鮮で、興奮する出来事でした。あんなに広くて、紺碧の海を見て、心も澄むようでした。ある人はこのような景色は中国の観光地と同じじゃないかと言うかもしれません。でも、島根県で、賛嘆に値するのは観光地だけではありません。中でも、特に印象深かったのは、リサイクル施設「くりんぴーす」と松江城の見学です。
 リサイクル施設「くりんぴーす」の見学は、私にとって初めてのごみ処理のリサイクル施設を見る機会でした。見学中、ずっと「中国はいつ頃このような施設ができるかな」と考えていました。でも、環境保護に一番大切なのは科学技術の発展程度ではなく、個人の保護意識と行動です。
浜田市での集合写真
 それから、400年の歴史を持つ松江城にもとても驚きました。完璧に保存されているからです。実は、日本から帰った後、江蘇省の名所旧跡である周庄へ行きました。周庄は中国明清時代の江南水郷の特徴を持つ建物が集まっている所で、とても有名です。しかし、商業化し過ぎているし、管理も下手だし、古い遺跡の破損が深刻で、とても残念でした。多分、今から400年後の未来、松江城は見ることができますが、周庄は見られるかどうか疑問だと思います。
 また、島根大学と島根県立大学の見学では、日本の大学生と交流し、何人かの友達ができました。とても嬉しかったです。特に、島根大学の図書館が印象深かったです。リラックスした雰意気である他に、学生にとって便利な設備が備え付けられていました。あそこならよく勉強できると思います。この他、沢山の資料をいただきました。大学を卒業した後、留学する時のいい参考になります。
 この夏休みの旅で、たくさんの美しい思い出ができました。それと同時に、たくさんの収穫も得ました。日本で色々な面白い体験をした以外に、やはり中国で習った日本語を日本で実践したという感覚は奇妙です。県民団の皆様や大学生と話を交わした時、あまり問題ありませんでした。三年前大学に入学した時には、夢にも思わなかったことです。私は日本のアニメに触れ、大学の専攻に日本語を選びました。その時から、よく日本のテレビドラマや映画を見て、その中の日本に憧れていました。今回のチャンスを得て、本物の日本を体験することができました。嬉しい気持ちより、むしろ日本に対する感心のほうが強いと思います。今回の旅を今思い出しても、やはり興奮します。多分、この先日本に行く機会はまたあるかもしれませんが、今回の旅は私にとって、とても特別です。ですから、それを振り返ることで、もっと深く日本のことを知りたいという気持ちが強くなりました。もう一回日本に行きたいと心から望んでいます。



このコーナーでは、中国の研究雑誌等から選出した論文の日本語訳を掲載します。

■西北民族地域における農村社会保障の現状と問題  *楊徳亮(北方民族大学)馬暁琴(寧夏社会科学院)
≪宁夏社会科学≫ 2009年5月(No.154)より
 【要 旨】
 現在、西北民族地区農村で実施されている一連の社会保障制度は、調和社会の建設にとって重要であり、積極的な役割を果たしている。現在西北民族地域で実施されている農村の社会保障には、適用の対象や範囲が狭い、保障レベルが低い、領域毎の発展が不均衡である、管理・適用が一律ではない等の問題が存在している。これらの点をさらに改善し発展させるべきである。

キーワード:西北民族地区、農村社会保障、寧夏、回族

   全文は こちら から

■1949年以降の農村における土地制度の変遷が砂漠化に与えた影響  *樊勝岳 張卉(中央民族大学)
≪干旱区地理≫2009年3月(第32巻 第2期)より
 【要 旨】
 1949年以来、中国の農村は大きな変革を経験した。それぞれの段階における土地制度が、砂漠化の拡大或いは縮小にどのような影響を与えたかという問題は検討に値する。土地制度の変化と砂漠化の拡大を比較する分析方法を用い、以下の結論を得た。中国の砂漠化面積の拡大と縮小は、農村の土地制度の変遷と緊密に関わっている。集団所有制の土地制度では、有効な労働動機が足りなかったため、砂漠化が急速に蔓延した。また、農村の土地使用権分配制度では、経済発展と生態保護という二重目標を達成することができない。砂漠化治理のためには新たな制度が必要である。

キーワード:土地制度変遷、砂漠化、生態治理、生態政策、中国

   全文は こちら から




■研究所訪問者
 (2010年7月~10月)
訪 問 日 訪 問 者
9月16日(木) 山下 晃功 様(島根大学教育学部)
太田 耕一 様(樹木医)
加田 聖 様(松江市総務部国際交流課) 他2名
9月17日(金) 市川 聖 様(新潟大学大学院自然科学研究科)
辺 境 様(新潟大学大学院技術経営研究科)
朱 鵬云 様(寧夏社会科学院)
10月14日(木) 武田 芳治 様(松江市市民部保険年金課)
森脇 秀平 様(松江市財政部固定資産課)


■新着図書紹介

このコーナーでは、研究所に新しく登録された図書の一部を紹介します。


『木育(もくいく)のすすめ』 山下晃功 原 知子 著
海青社・2008年3月

 「食育」とともに「木育」は、林野庁の「木づかい運動」、新事業「木育」、また日本木材学会円卓会議の「木づかいのススメ」の提言のように国民運動として大きく広がっている。さまざまなシーンで「木育」を実践する著者が知見と展望を語る。






『WTO体制下における東アジア農業の現局面』 鳥取大学大学院連合農学研究科 編
農林統計出版・2009年10月

 温帯モンスーン気候帯に属し、共通点を多くもつ日本、中国、韓国の農業。世界の貿易自由化を一層促進させるWTO体制の下で、これら3国の農業生産、農産物貿易、農村社会、農産物消費、そして農業政策はどう動くのか。各国の専門家による研究報告。







ご意見・お問い合わせ
島根大学・寧夏大学国際共同研究所
〒750021 中国・寧夏・銀川市西夏区賀蘭山西路489号 寧夏大学A区 39信箱
TEL: +86-951-2061882    E-mail:
HPアドレス http://www.ningxia.shimane-u.ac.jp/