島根大学・寧夏大学国際共同研究所日本側事務局 2011年10月 発行  


 2011年10月9~11日、中川正春文部科学大臣、程永華駐日特命全権大使を迎え、「第2回日中大学フェア&フォーラム」(主催:科学技術振興機構中国総合研究センターなど)が東京で開催された。フェアのブースには、日本から54大学・機構、中国から61大学・機構、その他11の先端技術の出展があり大盛況だった。

 フェアで行われたアピール大会では、司会者から「次は会場でもっとも目立っている島根大学のアピールです」と紹介された。確かに、島根大学の揃いのハッピ姿もブースのポスターも目立っていたが、それ以上に存在感を示したのは、①島根大学の学術交流の相手が東部でなく西部の大学であること、②学術交流24年という孤高の実績である。この点が、島根大学のブースを訪れた中川正春大臣の目にとまり、声をかけられもした。
 これら二つの特徴は、今後の研究所発展の礎石である。この礎石の上に、どのような研究所の将来像を描くべきか。そのポイントは次の三つだと私は考えている。

 第一に、研究所の研究枠組みとして「共同研究」と「個別研究」を区分し、研究所の共同意志として「共同研究」の課題を設定・遂行する。テーマとしては西部立地の地の利を生かし、かつ「地球的な大義」を持ったテーマが望ましく、例えば、荒漠(砂漠)化と世界食料危機、農業・農村、水資源問題、再生可能エネルギーなどが考えられる。
 第二に、前記の研究テーマは西部に共通し、西部の諸大学が取り組んでいる共通テーマであるため、広く西部の大学が学術ネットワークを組み、共同して取り組むほうが効率的に成果を挙げ得る。これが「中国西部学術ネットワーク」の目的であったが、機能するまでに至っていない。研究所を“扇の要”とした西部学術ネットワークを広げ、テーマごとの共同研究、ワークショップやシンポジュウム等を開催することは急務である。
 第三に、日本の研究者による個別の中国西部研究は一定なされているが、組織立ってはいない。研究所が窓口となって、多くの大学の多くの研究者を「客員研究員」に迎え、西部研究の便宜を図り共同することも、研究所の発展方向として重要な課題である。

 島根大学は、中国西部研究の日本のパイオニアの位置にある。この位置を生かして研究所を日中西部研究の開かれたプラットホームにする。これが、「日中大学フェア」からヒントを得た私の研究所の研究業務遂行のための将来ビジョンである。

2011年10月 島根大学・寧夏大学国際共同研究所 顧問 保母武彦






■2011年度研究奨励助成の対象者決定
 島根大学・寧夏大学国際共同研究所に係る研究者に対する研究奨励助成の2011年度(第4年度目)の対象者が決定しました。この助成事業は、島根大学と寧夏大学の学術交流20周年を記念し、島根大学によって創設されたものです。今年度は寧夏大学から5件の応募があり、その中から次の4件が助成対象に選ばれました。

 葉 林 (寧夏大学農学院・施設園芸・講師) 15万円
「寧夏南部山区の日光温室栽培に適したスイカ台木選別試験に関する研究」
《研究概要》
 「美利堅」「金剛」「嫁得金」「抗病金钻」という四つのスイカ台木を導入し、地元でよく栽培されている「華鈴」というスイカ品種と接木試験を行い、優良品種の接木を選別する。接穂と台木の親和力、苗の活着率、立枯病に対する抵抗力、台木の根系分布状況、生産量及び品質等の主な性状に関する総合的な研究分析を行い、寧夏南部山区の日光温室栽培に適した優良な台木品種を選別し、今後のスイカ生産における普及・応用に理論的支持を提供し、農民の増産増収に確固たる根拠を提供する。
 王 玲 (寧夏大学農学院・動物科学学科・副教授) 15万円
 「トマトの残渣物とトウモロコシの茎の混合貯蔵飼料の効果に関する研究」
《研究概要》
 トマトの残渣物とトウモロコシの茎を異なる比例で混ぜ合わせた貯蔵飼料をつくり、その飼料の品質を評価し、一番質の良い混合比例と貯蔵時間を確定する。
 江 暁紅 (寧夏大学政法学院・研究助手) 15万円
「寧夏南部山区における農村留守婦人の生存と持続可能な発展に関する研究」
《研究概要》
 寧夏南部山区は黄河中流の黄土丘陵地域に位置し、典型的な雨水に頼った農業地域である。劣悪な自然条件と脆弱な生態環境のせいで、経済及び農業発展が極めて立ち遅れており、一部の農民は今でも貧困から脱出していない。貧困による独特の現象として、留守婦人の人数が年々増えていることが挙げられる。このことは大きな社会問題となっており、農村の持続可能な発展を制限している。従って、南部山区における妻たちが「留守番」となる原因とその生活状況、婚姻関係と自立発展の難しさを深く調査・研究し、対策と解決方法を提案して、南部山区の農村を貧困から脱出させ、持続可能な発展を実現させることは、非常に重要な意義を持つ。
 藏 志勇 (寧夏大学西部発展研究中心・博士) 15万円
「農民工の「帰郷創業」による地域経済の振興に関する研究―中国・寧夏の事例を中心に―」
《研究概要》
 現時点の中国経済システムの一環として、農村部の発展は不可欠である。農村地域の経済発展に役立つ農民たちがその核心となり、中国における都市化と工業化への重心となっている。本研究では、中国西部地域の重要地域である寧夏回族自治区における農民工の「起業者」を研究対象にし、出稼ぎ地から獲得した技術や知識および現金を出身地に持ち帰った後の起業・経営が、地域経済の振興に与える役割・影響を明らかにする。
◎奨励助成制度詳細はこちらをご覧下さい→ http://www.ningxia.shimane-u.ac.jp/josei.html



■保母顧問・伊藤所長が寧夏大学を訪問

 5月15日~17日、保母顧問と伊藤所長が寧夏大学を訪れました。今回の訪問は、2010年末に行われた寧夏大学の大規模な人事異動後の研究所の状態を確認し、今後の研究所の方向性について話し合うために行われました。3日間という短い間でしたが、謝応忠寧夏大学副校長との会談、新しく研究所中国側所長となった王鋒教授との懇談等が行われ、謝副校長との会談では、今年度の早い段階で両校の学長・校長レベルの協議会を開催し、今後の研究所のあり方についてさらに話し合うことを決定しました。




■寧夏大学で島根大学留学説明会を開催

 5月17日、共同研究所にて島根大学の留学説明会が開催されました。説明会は9:00~と10:30~の約1時間、2回構成で行われ、寧夏大学の教員、学生の総勢86名が参加し、伊藤勝久所長から島根大学の紹介やカリキュラムの概要等の説明、また日本での生活等について説明を行いました。参加した学生たちからは、入試方法や留学にかかる費用、専門分野等に関する質問が積極的にあがり、熱気あふれる説明会となりました。
 島根大学は、今後も定期的に寧夏大学での留学説明会の開催をしていく予定です。



■共同研究所年報 第3号、第4号を発刊

 島根大学・寧夏大学国際共同研究所年報の第3号(2008年-2009年合併版)と第4号(2010年度版)を発刊しました。内容の閲覧は研究所HP「概要 < 研究所のあゆみ」ページをご覧ください。PDFデータを掲載しております。

 研究所HP 「概要 <研究所のあゆみ」http://www.ningxia.shimane-u.ac.jp/ayumi.html







■島根県民交流団が訪寧

 6月3日~7日、島根県民交流団が寧夏を訪れ、植林や寧夏大学の学生との交流等を行いました。これは、島根県内の民間団体である「日中友好しまね」が毎年行っているもので、今年で15回目を迎えました。この継続的な活動により、交流団による緑化は大きな成果を上げ、霊武市にある植林地には緑が広がっています。また、通訳として同行する寧夏大学日本語科の学生にとっても、日本語を使う実践的な活動の場となっています。




■北方民族大学で中日文化友好交流祭開催

  6月4日・5日、北方民族大学で中日文化友好交流祭が開催されました。日本語スピーチコンテスト、アフレコ大会、華道のデモンストレーション等、様々な日本に関する催しが行われ、近隣の大学や専門学校で日本語を勉強している学生等、たくさんの人が参加しました。特に日本語スピーチコンテストでは、1年生から4年生までの日本語を専門とする学生、及び第2外国語で日本語を学習した学生35名が出場し、日ごろの学習の成果を競い合いました。








第3回 石嘴山市

 石嘴山市は自治区の北部に位置し、大武口区(市中心区)及び一県一区(平羅県、恵農区)を管轄しています。

◆◆歴 史◆◆
石器時代 古代人類が生活
秦代 郡が設置される
西漢代 廉県が設置される
明代 平虜城(現・平羅県)が設置される
清代 甘粛省寧夏府に属し、平虜が平羅に改められる
1929年 寧夏が省となり、平羅県の北部地域が磴口県となる
1941年 市の西部に恵農県、東部に陶楽県が設置される
1960年 国務院によって、石嘴山市の設立が認められる
石嘴山市発表データ(2010年)
面積 5,310㎢
総人口 72.55万人
回族人口 14.15万人
(総人口の19.44%)
全市GDP 298億元
都市住民一人当たりの
年間可処分所得
15,466元
農民一人当たりの年間純収入 6,060元
全社会固定資産投資 270億元
地方財政一般予算収入 32.66億元

◆◆地理的状況◆◆
 石嘴山市は銀川平原に位置し、銀川市の北側にある。市の西側に賀蘭山があり、東側に黄河が流れている。銀川河東空港から80km、包蘭鉄道が通り、国道及び北京‐チベット間高速道路が全市を貫いており、交通至便である。
 自然環境の特徴として、湿地・湖沼が多い。国家5A観光地である沙湖もその一つである。湿地面積は43平方キロメートル、水域面積は23平方キロメートルである。市区緑地率は36%、森林被覆率は12%である。

◆◆工  業◆◆
 石嘴山市は国家「一五」期間に建設が始まった中国十大工業基地の一つで、自治区で一番初めに開発された工業都市である。市域内の鉱物資源が豊富で、石炭、硅岩、粘土、白雲岩等10種余りが発見されている。資源のほかにも、機械製造、新材料、エネルギー化学工業等の工場が数多くあり、特に太陽エネルギー産業が活発である。
 また、石嘴山市は中国で2番目の循環経済試験都市に制定されている。また、全国で初めての資源枯渇都市経済転換モデル地区でもある。

◆◆主な産業◆◆
 農産物:トマト、クコ、牛羊肉、水産物

主な資源埋蔵量
 ●石炭・・・・・・・・24億トン
 ●太西石炭・・・・5.6億トン
 ●硅岩・・・・・・・・42億トン
 




■経済発展のなかの寧夏~失われていく在来品種~  *小林伸雄(島根大学生物資源科学部・教授)

地方都市の農産物市場
  最近の首都銀川の都市発達には目を見張るものがあった。昨年9月に二年振りに銀川を訪問したところ、これまでは片側5車線もあるただ広いだけだった郊外道路の両側に,少なくとも県内では見ることもないようなビルディング群が林立していた。中国の急速な経済発展の波が沿海部から内陸の黄土高原まで押し寄せているのであろう。新しく発達した地域にある現代的な図書館や博物館を見学し,一瞬どこの国にいるのかわからなくなった。

  その後、以前よりさらに整備の進んだ高速道路に乗り、以前と同じ田園風景が見えてくると、寧夏に来ているという認識が戻って、少し気持ちが落ち着くのであるが、農業の内情も変革している。銀川市近郊では野菜・花卉類の集約的な経済栽培が発達しており、ここで栽培される品種は国外から導入された経済品種が大半を占めている。各地の市場に並ぶ形や色がきれいに揃った野菜を見ると、大手種子会社の野菜・花卉のF1種子が市場を独占する世界的な影響が、銀川をはじめ地方都市にも及んでいることが計り知れる。2005年度調査では、南部山区の小規模な自由市場において形質が不揃いな野菜や小さな果実のような在来品種の流通が観察された。その後の調査では均質で生産性と換金性が高い経済品種によって在来品種が取って代わる様子が垣間見られた。
地方市場の種苗店で販売される
トマト種子

  かつては我が国でもそうであったように、農家が菜園で栽培する野菜類は自家採種により毎年維持されていた。副業の運送業によって経済状況が向上し、手間のかかる自家採種は止めて、商業種子を購入するように変化したという現地の農家の事例もあった。南部山区のいまだに土を固めただけのような家が並ぶ農村地域にも経済発展の影響が及んでいる。これらの地域で地方在来品種の遺伝資源調査と保護を行わなければ、長年維持されてきた貴重な遺伝資源が失われていくであろう。我が国でも、戦後の経済発達の中では各地の在来品種が誰にも気づかれずに絶滅していき、最近ようやくその重要性や価値が認識されるようになった。現地の農学者らも今は経済発展重視の農業研究が中心である。
南部山区の農家


  その昔、独自の文字を持つ西夏王国が栄えていた寧夏も、現代中国の経済発展の大きな潮流の中にある。今後どのように変革していくかわからない現在の寧夏を是非とも一度訪問していただきたいと思う。映像や文面では伝わらない空気を感じていただきたい。シルクロードの重要な経由地でもあったこの地に必ず心惹かれる研究テーマが見つかるはずである。







このコーナーでは、中国の研究雑誌等から選出した論文の日本語訳を掲載します。

■寧夏農業の経済効果に関する調査・分析    *馬宏岩(銀川市食品(薬品)公共安全検験検測中心)
宁夏农林科技≫ 2010年第3期より
  近年来、寧夏は農業産業の構造調整の進展を早め、現代農業と特色農業の発展に力を入れている。寧夏の農民一人当たりの純収入及び優勢特色農業の経済効果と比較効果を把握するため、筆者は国民党革命(以下、民革)寧夏回族自治区委員会の「寧夏農業経済効果調査」の研究グループに参加した。この調査研究は2008年8月から10月にかけて行われ、自治区及び市の連動調査という方法によって、民革銀川市、石嘴山市、呉忠市、中衛市委員会がそれぞれの管轄区内の区、県、市で調査を行い、自治区委員会は固原地域での調査手配と全体のスケジュールを整えた。調査は、現地調査、座談会、農家調査、アンケート調査及びサンプリングの方法によって、農民の年収入と収入の出所及び構造、農業収入、畜産収入、農産品加工収入、農民生産経営費用、その他の支出、主な優勢特色農業産業の比較利益効果及び一人当たりの利益効果、社会貢献率の分析と順番、農業産業化経営(専業協会を含む)項目、当面の農民増収の主な困難と問題、農村経済発展に対する農民の考えについて調査研究を行った。

   つづきは こちら から





■研究所訪問者
 (2011年4月~9月)
訪 問 日 訪 問 者
5月9日(月) 青木 正三 様(関西日中交流懇談会 運営委員),青木 登代子 様  他2名
6月5日(日) 佐藤 修 様(国際交流基金北京日本文化センター 日本語教育専門家)
9月7日(水) 島根大学中国夏季研修 参加学生 11名,同 引率者 2名


■新着図書紹介

このコーナーでは、研究所に新しく登録された図書の一部を紹介します。


宁夏统计年鉴2010(寧夏統計年鑑2010)』
寧夏回族自治区統計局、国家統計局寧夏調査総隊 編

中国統計出版社・2010年9月

 寧夏の経済と社会発展に関する、総合的かつ系統的、客観的な年刊資料。寧夏の地域事情の研究、社会情報の収集、政策の制定等に欠かせない重要な書である。寧夏の歴史的重要年及び2009年の経済・社会各方面に関する統計データ、寧夏各市・県(区)の主要統計データ、全国及び各省(市、自治区)の主要データが掲載されている。







『日本人の心がわかる日本語』 森田六朗 著
アスク出版・2011年5月

  日本文化に興味のある学習者はもちろん、日本語の表現の幅を広げたい中級学習者、ことばの説明に苦労している日本語教師の方にもおすすめです。本書は、「内と外」、「世間」、「しつけ」、「けじめ」、「義理」、「遠慮」、「おかげさま」、「もったいない」などの、外国語に直訳しづらい言葉をとりあげ、その意味や使い方はもちろん、その言葉の背景に日本人のどんな感情や文化的背景が隠されているのかを“日本語学習者向けに”解説した本です。(アスク出版HPより)







ご意見・お問い合わせ
島根大学・寧夏大学国際共同研究所
〒750021 中国・寧夏・銀川市西夏区賀蘭山西路489号 寧夏大学A区 3信箱
TEL: +86-951-2061818    E-mail:
HPアドレス http://www.ningxia.shimane-u.ac.jp/