Vol.7

島根大学・寧夏大学国際共同研究所日本側事務局 2010年7月12日 発行  
 島根大学・寧夏大学国際共同研究所のニューズレターは第6号まで発行されてしばらく休眠状態でした。今年度より、日本側のスタッフ体制が一新され、心機一転でニューズレターを再開します。
 このニューズレターの目的は、本研究所と寧夏や中国内陸部の地域に関する情報を発信することで、多くの方々に関心を持っていただくことです。本研究所の研究対象領域は中国内陸部の地域開発とそれに関連する文化・社会経済・技術・自然環境に関することであり、幅広いものとなっています。これらに関する情報がもとになって、新たな分野での共同研究や人的交流、ビジネスの交流の橋渡しができれば幸いです。

 さて本研究所が寧夏大学に設置されて、5年になろうとします。今までの期間は、初代所長はじめ多くの先達が、研究所の業務の基盤を固めて来た時期でありました。
 研究にせよ、ビジネスにせよ、日中で共同事業を進めようとすると多くのハードルがあります。それは体制・制度の違いに基づくものであったり、意識や考え方の差であったりします。国際交流や共同研究の黎明期には、プロジェクトごとに手探りで最善の方法を模索していた時期がありました。最初の5年間の基礎固めの時期に、先達諸氏の努力で、それらはかなり払拭され、お互いにスムーズな付き合いが出来るようになったと思います。
 これからは、一定の手続きを済ますことで、誰もがスムーズな国際交流や共同研究が出来るように、先達諸氏が開拓した道を舗装し、バスを走らせるような意味合いでの、交流の基盤整備を進めたいと思っています。また、本研究所は中国内陸部に設置された日本の大学の附置施設としては唯一のものです。中国の西部大開発も開始後10年が経過し、今後内陸部の位置づけは一層高まると考えられます。そこで地の利を活かして、現在の交流をもとにより太い、確実な交流を進めていきたいと思います。

 この方針に資するように、ニューズレターも内容を充実していきたいと思います。研究所の活動状況、地域の社会経済情報、大学の研究教育情報、中国の制度的事情などを充実させ、有意義なものにしたいと思っています。
 本ニューズレターについてご意見やご要望をぜひお寄せください。そして研究所につきましてもますますのご支援をお願い申し上げます。

2010年7月 島根大学・寧夏大学国際共同研究所所長 伊藤勝久




■日本側所長・副所長が替わりました
 2010年度から、当研究所の所長・副所長の顔ぶれが替わりました。新所長は伊藤勝久教授(生物資源科学部)、新副所長(2名)は、一戸俊義教授(生物資源科学部)、関耕平准教授(法文学部)です。今後の研究所の運営・方向性について話し合うために、4月14日~17日の4日間、伊藤所長、関副所長が寧夏を訪れました。

 滞在期間中、研究所中国側との協議、2010年度研究奨励金受給者との面談、寧夏大学学長・副学長との面会、寧夏を訪れた東京島根経済クラブ一行との懇談などが行われました。特に研究所中国側との協議では、よりよい協力関係を築くために、寧夏における現地調査・研究手続きのマニュアル化、研究所人員の増強、研究所としての「戦略的研究課題」の設定など、様々な問題に関して積極的な意見交換が行われました。今年度は寧夏大学において「西部大開発10周年シンポジウム」、島根大学において「アジア・アフリカ学術基盤形成事業セミナー」が行われる予定となっており、より活発な交流が期待されます。




■2010年度 研究奨励対象者 決定
 島根大学・寧夏大学国際共同研究所に係る研究者に対する研究奨励助成の2010年度(第3年度目)の対象者が決定しました。この助成事業は、島根大学と寧夏大学の学術交流20周年を記念し、島根大学によって創設されたものです。今年度は寧夏大学から7件の応募があり、その中から次の3件が助成対象に選ばれました。


閻 宏
(農学院・教授)
「クコの生産廃棄物の資源化に関する研究」 20万円

クコの茎葉部および果実加工残渣など,寧夏において,クコの生産と加工過程で生ずる廃棄物の産出量を調査するとともに,栄養素と生理活性物質(ルチン,ベタイン,ビタミンC)の含有量を測定し,廃棄物の資化方策について検討を行う。

曹 兵
(農学院・教授)
「寧夏干ばつ風砂地区における土壌中炭素含量の区間差異」 20万円

寧夏干ばつ風砂地区における6種類の調査対象地(自然草地,退耕還草地,人工封育草地,流砂地,固定砂地および人工林地)より土壌サンプルを採取し,強熱残渣および炭素含量を測定し,植生と土壌中炭素蓄積の関連について量的解析を行う。

蘇 東海
(政法学院・教授)
「寧夏南部山区の農業経済と社会発展の比較に関する調査研究」 20万円

寧夏南部山区は黄土高原の東部に位置し,生態環境が脆弱で,雨水に頼った農業生産条件であり,一部の農民は今でも貧困から脱出していない。また,工業基盤が弱く,第二次,第三次産業の発展が遅れており,財政能力が低く,労働就職が難しい。したがって,南部山区で調査研究を行い,貧困克服の対策と方法を提出することは,南部山区の急速な発展に重要な意義を持つ。




■寧夏大学 張小盟教授・住友財団の助成事業に採用

 寧夏大学の張小盟教授(経済管理学院)が、住友財団が実施する「2010年度アジア諸国における日本関連助成」の対象に採用されました。張教授は関副所長のカウンターパートでもあります。当研究所は、申請書の翻訳及び連絡などでお手伝いしました。

<研究概要>
 本研究では、中国の寧夏回族自治区内の石炭生産地域・石嘴山市と、日本の旧産炭地(北九州市)の環境産業を、主に政策比較を通じて、環境保全・資源循環型の地域経済発展戦略の政策形成への提言を行う。本研究によって、中国の循環都市政策を前進させ、日本の政策実態と政策手段の知見を地方政府に提供し、石嘴山市の政策遂行に貢献する。又、石嘴山市(循環都市)の実態を日本に紹介し、日本の中国環境産業政策研究の発展に貢献する。


■寧夏大学:618名の大学院生が課程修了

 中国の6月は卒業の季節です。寧夏大学では、6月9日に大学院の修了式が行われ、修士課程609名、及び博士課程9名の学生が課程を修了しました。寧夏大学には現在3つの博士課程(中国少数民族史、水利水電工程、草業科学)、49の修士課程、4つの専門修士(MBA)課程(工商管理、工程、教育、農業推進)があり、2600名余りの学生が在学しています。


■研究所宿泊施設 料金改定

 研究所には現在、宿泊可能な部屋が4部屋あります。寝室+リビングという構造で、シャワー・洗面所・テレビ・机など基本的な設備が整っています。長期宿泊も承っておりますので、寧夏にお越しの際はぜひご利用下さい。

     【新料金表】
   1~7泊 8泊~14泊 15泊以上 備 考
料 金 200元/泊 150元/泊 100元/泊 朝食つき
学生料金 100元/泊 朝食つき




第1回:銀川市

 銀川市は寧夏回族自治区の区都で、市内三つの区及び二県一市(永寧県、賀蘭県、霊武市)を管轄しています。

◆◆歴 史◆◆
旧石器時代 古代人類が生活(1923年水洞溝遺跡 発見)
BC3世紀 黄河灌漑の開始
漢代(BC206年~AD220年) 北典農城という町が作られ、農業経済が発展
1038年 タングート族が西夏国を建設
1944年 寧夏省が設置され、銀川という名前がつけられる
1958年 寧夏回族自治区が設置され、銀川市が区都となる
銀川市発表データ(2009年)
面積 9,527.31㎢
市区面積 1667㎢
都市建設区面積 110.77㎢
総人口 155.5万人
回族人口 43万人
(総人口の26%)
全市GDP 578.15億元
都市住民一人当たりの
年間可処分所得
15,900元
農民一人当たりの年間純収入 5,410元
全社会固定資産投資 492.1億元
社会消費品小売総額 185.48億元
地方財政一般予算収入 92.53億元

◆◆地理的状況◆◆
 東に黄河、西に賀蘭山があり、市の外側はトンゴリ砂漠、モウス砂地、ウラブハ砂漠という三つの大きな砂漠に囲まれている。地形は山地と平原の2つ
にわけられる。海抜は1010~1150mで、西部と南部が比較的高く、北部と東部は低い。賀蘭山の最高海抜は3556mで、西北からの冷たい空気と砂風が銀川に直接流れ込むのを防いでいる。賀蘭山区は銀川市唯一の天然林資源で、総面積2.67万haのうち天然次生林は1.23万ha、賀蘭山の森林被覆率は22.8%である(銀川市全体の森林被覆率は11.5%)。また、銀川市内には多くの湖沼があり、湿地面積は合わせて3.97万haに上る。

◆◆気 候◆◆
 典型的な温帯大陸性気候で、雨が少なく乾燥している。年平均気温は8.5℃前後で、昼夜の気温差が大きい。年平均日照時間は2800~3000時間、年平均降水量は200mm前後、無霜期は185日前後。

◆◆経 済◆◆
 「フフホト-包頭-銀川-蘭州-青海経済帯」に位置し、西安から蘭州までの西隴海鉄道(※)の蘭新経済重点開発都市に定められた。さらに銀川市は寧夏・陝西・甘粛周辺の500㎞範囲の中心都市でもあり、この範囲内の人口は1000万人に及ぶ。
 ※隴海鉄道は中国の東西方向の主要鉄道本線。東は江蘇省連雲港から西は甘粛省蘭州まで全長1759㎞。西隴海は西安~蘭州間。

◆◆主な産業◆◆
 農業、酪農、果樹栽培(主にリンゴ、ブドウ、梨、棗)、エネルギー化学工業、発酵・生物製薬、清真食品・イスラム用品、機械電気製造、新材料、カシミヤ

◆◆主な資源◆◆
 ・甘草、麻黄素などの漢方薬(40種類以上)
 ・石炭、石灰岩、白雲岩などの鉱産物資源(20種類以上)
  ※特に霊武市の石炭・石油・天然ガスは豊富。





■研究素材の宝庫:寧夏回族自治区への誘い   *関 耕平(研究所副所長・法文学部准教授)

関 耕平准教授
 松江を早朝に出て伊丹―関空を経て、北京―銀川(ぎんせん)と、ほぼ一日をかけてたどり着いたのは、その日の夜12時近くである。それでも松江から一日かけると中国内陸部の奥地・寧夏にたどり着けるというのは、便利になったといってよいだろう。交流が始まったばかりの20年前は、北京から列車で一昼夜かけて銀川にたどり着いたと聞く。
 2005年の赴任以来、寧夏訪問はすでに数え切れないほどであり、現地の地理も含め、戸惑うことが少なくなったが、それでもまだまだ、調査がスムーズにいくということはなかなかない。それでもこの土地は、研究者にとって魅力は尽きない、研究素材の宝庫であるといえる。
野菜市場の様子
 2010年3月に、寧夏回族自治区・銀川市内での調査を1週間ほどかけて実施した。テーマは農村廃プラの処理と自動車リサイクルの実態である。寧夏回族自治区には、日本が30-40年前に経験したであろうことが、極めて興味深い形で「再現」されている。たとえば、日本において今ではリサイクルという形で、費用を支払って引き取ってもらい処理しなければいけないペットボトルや農業廃プラスティックが、中国・寧夏では有償で取引(買取)されている。自動車リサイクルについても、かつての日本での姿(環境汚染防止の観点が欠落している)がそのまま再現されている。
 こうした≪かつての日本の再現≫は、あらゆる研究領域に看取できる。たとえば、原生種にちかい野菜や果物がいまだに市場流通していたり、農村からの労働力の移動(出稼ぎ)が急速に進展していることなどのことである。
トウモロコシの茎を運ぶトラクター

 また、こうした≪かつての日本の再現≫は、重要かつ実践的な研究課題に、私たち研究者を駆り立てる。現在進められている労働力の都市への移動が、現在の日本の農村における過疎化や高齢化など、≪悪い意味での「日本の再現」にならないか≫、≪それを回避するための課題は何か≫といった、実践的で、かつ中国社会の今後にとって重要な研究課題がそれである。
 とはいえ研究を実際に進めるにあたって大きな壁が立ちはだかる。すべてが政府の許可が必要で、データの取り扱いなどについても特に慎重で、なかなか許可が下りないことも多い。また、あらゆる点でコネ社会であり、日本での調査とは違った困難さがある。
 しかし心配は無用、日本人スタッフが常駐する島根大学・寧夏大学国際共同研究所によってこの困難をクリアすることができる。寧夏大学の研究スタッフをカウンターパートにして共同研究を進める体制が整っており、政府関係にも多くのコネクションがある。
 より多くの研究分野の研究者が当研究所を気軽に利用し、実りある国際共同研究が進展することを願っている。



このコーナーでは、中国の研究雑誌等から選出した論文の日本語訳を掲載します。

■農業・農村経済情勢と「三農」の挑戦    *陳錫文(中央農村工作指導小組)
≪中国≫ 2010年1月(No.301)より
 【要 旨】
 2009年、中国における農村改革・発展の成果は予想されたよりも良好であった。具体的には、食糧生産の状況や農民の増収、農民工の就職状況及び農村民生、農村改革の進展が予想より良かった。中央政府は最近、特に共産党第十六期大会後の国内外の情勢及び農業・農村発展の情勢の変化に対応して、「三農」問題の解決方法に関する基本方向を示した。それは、城郷(都市と農村)の計画的発展を「小康」社会を全面的に建設するための基礎とし、農村民生を国民の収入分配構造調整のための重要な内容とし、農村の需要拡大を内需拡大の重要な措置とし、現代農業の発展を経済発展方式転換のための重要な任務とすることによって、社会主義新農村建設と都市化の進展を安定的かつ急速な経済発展のための永久の推進力にするというものである。今後、中国は農業と農村の三大問題(農産品の供給問題、農業の基本的経営制度問題、都市化と調和的な進展及び新農村建設問題)に正面から向き合い、解決しなければならない。

   全文は こちら から

■循環経済の発展促進のための経済政策体系の構築    *李云燕(北京工業大学)郭建鸞(中央財経大学)
≫2010年1月(No.587)より
 【要 旨】
 本稿では、中国の国内外における循環経済政策研究と政策実施の現状を分析した上で、循環経済の発展にとって中国の現行経済政策が有する限界性と問題点について考察し、循環経済の発展を促進するための経済政策体系の構築と実施手段について提案する。即ち、財政、租税、投資、金融、価格、産業などの経済政策を新たにつくることによって、循環経済の発展に資する政策を提供しようとするものである。
 キーワード:循環経済 政策体系 実施手段

   全文は こちら から




■研究所訪問者
(2010年4月~6月)
訪 問 日 訪 問 者
4月17日(土) 難波 明 様(東京島根経済クラブ)
新出 雄彦 様(島根県東京事務所)  他6名
4月28日(水) 高橋 史郎 様(早稲田大学留学生センター)
玉腰 辰巳 様(笹川日中友好基金)  他2名
4月29日(木) 犬塚 優司 様(島根県立大学総合政策学部)
唐 燕霞 様(島根県立大学総合政策学部)


■新着図書紹介

このコーナーでは、研究所に新しく登録された図書の一部を紹介します。

日本語の本

『国際化時代と「地域農・林業」の再構築』 井口隆史 編著
日本林業調査会・2009年12月

 「グローバル化」と訣別、地域に根ざした新たな農・林業のあり方を、16人の執筆者が示す。「今後の地域農・林業、農山村のあり方を考えるとき、それぞれの地域条件を前提にしながら、どのような方向が模索されるべきか」という問いに対し、持続可能な森林・林業の条件、農山村のオルタナティブな将来設計等を論じる。






中国語の本

『第2回回族学国際学術討論会論文集』 楊懐中 主編
黄河出版伝媒集団/寧夏人民出版社・2009年12月

 2006年9月に寧夏・銀川市沙湖で行われた第2回回族学国際学術討論会のプロシーディング集。日本からも高橋健太郎氏他、3名の研究者が参加。







ご意見・お問い合わせ
島根大学・寧夏大学国際共同研究所
〒750021 中国・寧夏・銀川市西夏区賀蘭山西路489号 寧夏大学A区 39信箱
TEL: +86-951-2061882    E-mail:
HPアドレス http://www.ningxia.shimane-u.ac.jp/