■循環経済の発展促進のための経済政策体系の構築    李 云燕(北京工業大学)、郭 建鸞(中央財経大学)

 循環経済とは、生産・流通・消費の過程で行われる減量化、再利用、再資源化活動の総称である。これは資源の効率的利用とエコロジーを核心とする一種の新しい型の経済モデルであり、持続可能な発展戦略を実施するための重要な手段である。中国の社会経済発展は、資源と環境に制約されているため、(これを乗り越えるためには)「資源の投入が高く、廃棄物の排出も多い」という伝統的経済成長方式から「資源の消費が少なく、廃棄物の排出も少ない」という循環経済発展方式に転換して、経済的に安定し、環境的に安全な、持続可能な発展を保障していく必要がある。
 『中華人民共和国循環経済促進法』により、「県クラス以上の人民政府は、循環経済の発展に対する目標責任制を作り、企画、財政、政府購入(公的消費)などの措置を取り、循環経済発展を促進しなければならない」と定められている。現在、中国の経済体制は計画経済から市場経済への転換期にあるため、循環経済の発展には法律規範や政策によるリーダーシップが必要である。しかし、現段階では法律がまだ完備されておらず、財政、租税及び金融、投資などの誘導的な経済政策も行われていないため、循環経済の発展を促進するための経済政策体制を構築し、循環経済発展の実践に経済的奨励制度を早急に整備する必要がある。
 
 一、中国における循環経済政策の研究と政策実施の現状
 循環経済政策の原初的形態は伝統的資源環境政策であるといえる。先進国における政策発展の歴史からみると、1970 年代には主に法律制定を特徴とする直接規制の手段を採用したが、1980 年代には法律体系に基づいて、租税政策や排出権取引等の経済的政策手段の導入が始まった。1990 年代、法律体系はさらに整備され、経済的政策手段がいっそう強化された。
 21 世紀になると、循環経済の実施が急速に発展したのに伴って、地域間の協力が強まり、新しい政策体系や制度的措置が実施されつつある。総じて言えば、循環経済の政策体系に関する国内の研究は、まだ模索中であり、初歩的研究しか行われていない。
 その研究領域は、主に次の二つに集中している。一つは、海外における循環経済の事例や政策手段の紹介と比較により、中国に示唆を与える研究である。もう一つは、中国の循環経済の政策実態についての分析であり、その大部分は法律体系と税財政政策を分析対象として、その改革提案を行う研究である。中でも、税財政政策の研究では、現在行われている循環経済にかかる税財政政策の不十分な点を分析し、望ましい政策体系の提案が研究されている。とくに研究が集中しているのは環境税制(課徴金制度)に関する研究であり、循環経済を発展させるための財政政策についての実証的研究もまれに見られる。
 しかし循環経済の発展を促進するための投資政策、融資政策、価格政策、産業政策、技術政策、政府購入政策、政策評価制度等の分野の研究はまだ非常に少なく、中国が循環経済を発展させるための政策体系の整備と実施行程に関する研究が相対的に不足している。
 中国の現状からみると、循環経済は今後、政策的誘導によって長期にわたって発展していく産業となるであろう。循環経済の発展を促進する上で主たる効果を発揮するのは、国家の政策方向、つまり、財政と租税、国債による投資、環境関連法の執行等であろう。一方、市場経済がますます強まっている今日、資本による「利潤追求」も企業行動のもう一つの行動原理となっていくであろう。
 これらの全てが循環経済の発展の推進力である。循環経済の発展を促進するためには、現行の経済政策の限界性と問題を分析した上で、海外の経験を参考にして、中国の状況に相応しい経済政策体系の確立とその運用について深く研究し、制度的な保証と政策的な支援を行うことが求められている。
 
 二、中国における現行の循環経済政策の限界性と問題点の分析
 1)循環経済の発展を促進する財政政策には限界がある。第一に、循環経済の発展を支える投入財源の不足が深刻なため、財政措置を総量制限して、事業仕分けをすることも必要となっている。第二に、生態環境を保全するための財政支出が必要額に足らず、生態環境悪化の趨勢を抑制できていない。第三に、環境保全投資の効率性が低いことである。その原因は環境保全投資がばら撒き的であるとともに監督が不十分なためである。このため、環境保全の投資も管理の方式も社会全体の市場化より大幅に遅れている。

 2)租税政策が、急激な循環経済の発展に比べて不十分である。
 租税政策には以下の点で限界がある。第一に、中国では循環経済を発展させるための租税政策が完備されていない。第二に、現行の租税制度では環境保全の効果が限定的であり、資源が浪費されており、環境保全に対する実質的な改善効果がない。第三に、現行の汚染原因者負担制度には、課徴金の負担水準が低いこと、徴収効率が低いこと、また徴収コストが割高であるといった問題がある。第四に、環境保全のための目的税である環境保全税がないことであり、このため租税による環境保全効果が弱くなっている。第五に、付加価値税、資源税や消費税等には、環境保全関連税目に関する具体的な規定がされておらず、(税制間の)整合性に乏しく、ある税目は循環経済の発展を抑制する恐れさえある。第六に、現行の自然資源税は租税の性格と定義が適合的でなく、徴税範囲が狭い上、課税根拠が合理的でなく、課税額が低い等の問題を持っている。第七に、租税優遇措置が各種政令や細則によって分散的に定められているが、税法上の明確な規定が少なく、租税優遇措置は体系性や安定性に欠けており、今後の展望や予測も難しい。

 3)金融・投資政策が、循環経済発展の要請に適合していない。投資政策の内容は、①政府が提供する“インキュベーション”基金。循環経済に資するプロジェクトに対して補助するもので、主に循環経済の技術研究開発に資金援助することにより、循環経済の大型プロジェクトを支援している。②租税優遇措置を通じて、民間資金を循環経済の分野、特に静脈産業の分野(リサイクル部門)へと誘導している。現在、中国では循環経済及び環境保全領域の金融資金の不足が深刻である。資金回収が長期間に及ぶことや、投資先が多元化してリスクが増大するため、環境保全や資源に関連する投資に対して関心が持たれていない。中国ではベンチャー投資に対する制度が完備されておらず、循環経済のための技術開発を行っているような多くのベンチャー企業には、開発や実証試験に必要な資金の保証がなく、こうした融資を受ける道が開けていない。こうした分野にこそ政府による有利な融資政策が必要とされるのである。

 4)価格体系が環境資源の需給関係を正確に反映していない。資源価格の決定では、資源を入手する代価、例えば鉱産物の採掘費用や運送費用などだけが考慮されていて、希少性などの資源の真の価値や環境損害コスト(環境被害の社会的費用と損失)が反映されていないため、市場価格が真の価格と比べて大幅に低く設定されている。このような価格実態では、資源の経済価値しか考慮されず、生態的価値が見落とされ、資源価値が正確に反映できない。環境資源価格が低くて無償(ゼロ元)になれば、一部の企業は誘惑に駆られて環境資源を無制限に開発・利用し、大量の環境的浪費と環境汚染をもたらすことになろう。また、資源利用の削減または循環利用のためには、廃棄物の収集・運送・転用・供給等の費用が必要となるが、これら費用は労働力、機械設備、技術、管理の水準等のどの要素にも関係しており、循環経済の利益に対してマイナスの影響をもたらす。つまり、循環経済によって節約できる資源と、獲得できる経済利益とは反比例になっており、循環経済を発展させれば、必ず費用面で苦境に追い込まれる構図になっている。

 5)産業構造が非合理的で、資源環境の条件に適合していない。現在、中国は工業化の中期段階にあり、産業構造が合理的ではない。つまり、重化学工業のシェアが大きく、(産業が)資本集約型産業に集中している等の問題がある上、急速な経済成長を遂げている。これはエネルギー浪費的であり、環境汚染寄与度が高く、技術装備率が低く、低付加値の産業構造が形成されており、水資源やエネルギー資源上の制約がある中国の条件に適合していない。近年、国内生産総額の単位当たりエネルギー消費量の状況は悪化しており、2000年を基準に計算すれば、2002-2004年には1万元に対してそれぞれ1.30t、1.36t、1.43tの石炭を消費し、2004年と2005年は同程度に推移し、2006年に1.2%下がっただけである。ますます厳しくなる資源・環境上の制約下では、資源節約型で環境にやさしい新しい型の産業体系の構築が求められているのである。
 
 三、循環経済の発展を促進する経済政策体系の構築と実施手段
 1)循環経済の発展を促進するための財政政策を強化する必要がある。
 政策策定の全体的考え方:国家財政は、市場が負担することができない投資、若しくは負担を回避しようとする投資に対して責任を負う以外に、各種の財政手段により、循環経済の市場化の促進を推し進めていくことが重要である。
 具体的な措置:(1)国務院と省・自治区・直轄市の人民政府が、循環経済の発展のための専用基金を設立し、循環経済に係る科学技術の開発、循環経済技術と製品の推奨、重要な循環経済プロジェクトの実施、循環経済を発展させるための情報の提供などを実施する。(2)循環経済に係る重要プロジェクトの自主的な開発研究、その実用化と産業化の発展を、国家や省レベルでの科学技術発展計画や先端技術産業発展計画に組み入れて財政的にも支援する。(3)環境保全投資を増やし、環境保全事業を飛躍的に発展させる。(4)環境保全のための支出費目を増やし、環境保全のための財政投資を増加させるシステムを作る。(5)(国から地方への)財政移転支払制度を規則化し、生態環境保全事業と(省・自治区・直轄市の人民政府の)総合行政能力の建設を移転支出の重点として、優先的に保障する。

 2)循環経済の発展を促進する租税政策を整備する。
 全体的考え方:現段階における中国の租税政策を整備すべきである。環境外部費用の内部化に実効性のある規則を作り、現行の租税制度の下で微調整しながら、国際的経験を参考にして中国の状況に適した、循環経済発展の要請に適合する租税政策を作る。
 具体的な措置:(1)循環経済の発展を促進する産業活動に対して租税優遇措置を設け、租税政策等を活用して、先進的な省エネ・節水・原料節約等の技術・設備・製品(開発)の導入を奨励し、他方で、エネルギー多消費、汚染負荷が深刻な生産工程における製品の産出を抑制する。(2)企業の製品または原料等が、清潔生産(cleaner production)や資源の総合的効率利用といった国が奨励している技術、工芸、設備、製品の目録に適合すれば、国家の規定により租税優遇措置を受ける。(3)環境保全に関する現行の租税政策と運用措置を改革し、エコ製品向けの租税制度を作る。(4)汚染排出についての課徴金制度を改革し、“排汚費”(使用料)を“排汚税”(租税)に変える。(5)環境保全のための新たな税目として環境保全税の徴収を始める。(6)自然資源税の課税範囲を拡大し、課税根拠を明確化し、税率を高める。(7)価格政策、産業政策、金融政策と併せて、循環経済発展の要請に適合的な租税調節規則を作る。

 3)循環経済の発展を促進するための投資政策を研究し策定する。国家は生産、消費、廃棄物のリサイクル利用という三大過程から着手して、最新技術を用いて、循環経済の発展のための投資政策を支援する。政府自らが循環経済への投資を増やして、循環経済に役立つ業種、プロジェクト、公共施設に投資する一方、金融部門に対して循環経済産業への優遇融資を与えるよう指導する。例えば、環境汚染を軽減する環境保全施設への投資には、低利・長期等の優遇融資を提供する。政府投資は、重点プロジェクトと緊急プロジェクトを優先的に支援するという原則に則って、汚染負荷の寄与度が大きく資源多消費の業種の改善プロジェクト、不足する資源の循環利用を推進するプロジェクト、相対的に成熟した循環利用技術や資源再生技術の導入プロジェクトを優先的に支援する。この他には、政府が主導する投資コントロールの下で、外資導入の規模を積極的に拡大し、民間資金の活用を強め、投資主体の多元化を徐々に実現していくことによって、市場が持つ基礎的資源配分機能を効果的に発揮させるべきである。

 4)循環経済の発展を促進するための金融政策を研究し策定する。金融が循環経済を支援するポイントは主に、①金融業の全体的な支援、②基金、特にリスク投資基金の支援、③健全で効率的な現代的資本市場の支援、という三つである。環境・資源・循環経済プロジェクトに対する長期融資が少ないため、政府は資金政策を適切に調整すべきであり、循環経済と持続可能な発展という要請に基づいて融資の方針を確定し、融資プロジェクトの優先順序を合理的に確立すべきである。例えば、政府が利率や融資政策等の手段を用いて、循環経済プロジェクトや高付価値で汚染排出が少ない、成熟した高度先端技術・企業に資金の流れを誘導することは可能であり、伝統的製造業の技術革新を奨励し、高(エネルギー・資源)消費・低生産・高(汚染・廃棄物)排出のプロジェクトや企業を規制し淘汰することができる。
 具体的な措置:(1)不足する一部の重要な資源あるいは日常生活と密接している資源の価格を調整して資源浪費を抑制し、企業を誘導して資源の効率的利用を促す。(2)原材料と最終製品との価格関係を調整し、自然資源の価格を調整する。(3)資源・環境コストを生産コストに算入して、環境・資源の開発・保全・補償のコストを国民経済計算体系に取り入れ、徐々に原材料生産における需給関係を反映する価格規制を行う。

 5)循環経済の発展を促進するための産業政策を研究し策定する。資源節約型で環境にやさしい新エコ型産業体系の形成は、循環経済の重要な拠り所となる。循環経済産業を発展させる重点分野は以下の通りである。一つは資源節約型産業、二つ目はエネルギー・原材料の代替産業、三つ目は廃棄物の国際的大循環に係る産業、四つ目は資源の総合利用産業とその製品、五つ目は環境保全産業、六つ目は以上に関連するサービス産業である。
 
 四、まとめ
 1)循環経済に関する経済政策の寄せ集めの現状を改革・刷新すべきである。
 制度改革において重要な点は、循環経済の経済政策・制度による効果が、循環経済が営まれている時には各利益集団間の利害調整に役立ち、循環経済の発展という目標に従って人間の経済行為が拠るべき基準を示し、また規制し、循環経済という目標の実現を社会の各方面に促すことである。現在の寄せ集めの政策からみると足らないところもあり、政府の一部の経済政策には問題点もあって、循環経済発展の制度障害にすらなっている。したがって、政府の経済政策の改革・刷新を通じて、経済政策分野の制度障害を取り除き、経済政策の制度的効果を万全なものとし、循環経済を発展させるための奨励と規制の効果が発揮できるようにし、また、企業と社会大衆が循環経済を発展させるという内在的な推進力を形成するように、循環経済の発展にむけた経済政策分野における制度保証が提供されることが必要である。

 2)経済政策の刷新は循環経済発展の重要な制度的要請である。
 循環経済という持続可能な社会発展にとって有効な新しい経済発展モデルは、制度の刷新によって、提供される制度を増やし、制度転換をしなければ実現できない。つまり、新しい循環経済に適合した財政、租税、投資、金融、価格、産業などの経済政策体系を構築することを通じて、循環経済の発展を促進するプロジェクトと生産・消費行為を奨励し、政策の策定と実施規則などの分野から循環経済制度の構築を万全にして、その発展を全面的に推し進めていくべきである。

 ・李云燕(北京工業大学循環経済研究院)
 ・郭建鸞(中央財経大学商学院)
 ≪経済学動態≫2010年1月(No.587) P76-79