島根大学・寧夏大学国際共同研究所日本側事務局 2014年2月 発行  


 寧夏研究所の今後の展開方向は大きく拡がりつつある。研究所は研究を通じた人材育成と地域貢献をその任務としているが、対象地域を地元の寧夏回族自治区だけに限らず、同様の問題を抱える中国西部に展開しようしている。もともと2009年、島根大学と寧夏大学は、「研究所を拠点とする中国西部地域研究の学術ネットワーク」の構築を約束した(国際共同研究所第2次基本合意書(2009))。その後、内蒙古師範大学歴史文化学院、西南大学歴史文化学院、蘭州大学歴史文化学院、蘭州大学西北少数民族研究中心が、本学術ネットワークに参加した。そして2013年10月段階で「西部研究学者協力を強化するためのショウ(人偏に昌)儀書」が両大学で承認され、今まで本ネットワーク形成の準備段階であった状況が大きく動き出した(なお島根大学側では「西部学術ネットワーク」と呼び習わしており、寧夏大学側では組織体をイメージする名称を避けて「加強西部研究学者協力」となっているが、実質的には同じである)。
 この背景には2013年5月島根大学で開催された第10回日中学術セミナーで、JICAの支援により中国西部各地の大学・研究所から研究者が集まり熱心な討議がなされたことによる。JICAは寧夏研究所を中心にした西部学術ネットワーク形成という動きに高い評価を与えており、ネットワーク成立の促進のために、中国西部各地から研究者を招聘したものである。松江に集まった研究者の所属は、列挙すれば、寧夏大学の他、寧夏農業総合開発弁公室、寧夏農林科学院(寧夏自治区)、内蒙古師範大学、内蒙古大学、内蒙古農業大学(内蒙古自治区)、蘭州大学、蘭州交通大学(甘粛省)、西北農林科技大学、西安建築科技大学、西北大学(陝西省)、青海大学、青海師範大学(青海省)、中国農業大学、中国農業科学院(北京市)、西南大学(重慶市)、南京理工大学(江蘇省)である。

 2000年に始まる「西部大開発政策」により、西部地域の省都や地方中核都市では急速な経済発展が見られるが、周辺農村では農業産業化による環境負荷増大や人口減など急速な変化に十分対応できていない。周辺農村の社会経済発展と環境保全を両立させ、持続可能な農村地域を形成することが重要である。そのために必要な知見や技術を相互に持ち寄りプロジェクト方式で日中学術協力を行い、その成果を地域に還元しようとするものである。
 研究分野としては従来からの農村の社会発展、持続可能な農畜産技術などに加え、農村文化・伝統の維持保全、宗教と民族特性、学校や社会での環境教育手法など持続可能な社会構築に関連する島根大学が協力可能なあらゆる分野が想定されている。
 寧夏研究所はそのハブとして、各プロジェクト研究を調整と事務的に支援するという新たな役割を持ち、より広い地域を対象としようとしている。今後とも新たな研究プロジェクトの立ち上げと推進について、島根大学研究者各位のご協力をお願いしたい。
 

2014年2月 島根大学・寧夏大学国際共同研究所 所長 伊藤勝久





■第10回・第11回共同研究所セミナーを開催
 5月11日~12日に島根大学で、10月21日~23日に寧夏大学で、第10回・第11回の日中学術国際セミナーがそれぞれ開催されました。第10回セミナーは2012年に開催される予定でしたが、日中関係の緊張を受け、延期されていました。
 第10回セミナーは、「日中農村における持続可能な社会構築と環境教育」という全体テーマで開催されました。JICAの招聘支援により、寧夏大学の他、西部地域を中心とする16の大学・研究所から31名、島根大学はじめ日本の各大学・行政組織等から27名、JICA関係者7名が参加し、基調報告3本、報告43本が行われました。今回はJICA関係プロジェクトの担当者や日中友好関係NPOからの報告もあり、ODA、学術交流、市民交流の多様な面からの日中交流の成果を確認できるセミナーとなりました。

 第11回セミナーは、「中日両国における国際化を視野に入れた農村社会自然経済の持続可能な発展」をテーマとして開催されました。島根大学からは、小林学長ら大学代表団をはじめ、生物資源科学部、法文学部、教育学部の教員・大学院生が参加しました。また、今回のセミナーは、島根県と寧夏回族自治区の友好交流締結20周年の一連の行事と日程を合わせて行われたため、島根県の小林淳一副知事を団長とする島根県の関係者、またNPO法人日本寧夏友好交流協会のメンバーなど市民の友好交流団もセミナー開会式に参加されました。その後の学術報告では約40本の報告がなされ、活発な議論が行われました。

   



■2012年度研究奨励助成の対象者決定
 10月21日、寧夏大学において共同研究所図書館の開館式が行われました。この図書館は、日本の文化と風俗を寧夏の人々に知ってもらうため、日本語の書籍、雑誌等を閲覧できる場所として開設されました。図書館開設の趣旨に賛同した小林祥泰学長をはじめ多くの島根大学教職員、島根大学附属図書館、NPO日本寧夏友好交流協会等から2,463冊の日本語書籍が寄贈されました。
 開館式では、小林祥泰島根大学長から何建国寧夏大学校長へ寄贈図書の目録が手渡され、図書館に掲示する看板の除幕式が行われました。小林学長は、「この図書館が多くの人々に利用され、島根大学への留学を希望する学生が増えることを期待したい」とあいさつされました。開館式の後、島根大学関係者と、寧夏交流20周年記念式典のために銀川市を訪れた島根県訪問団、NPO日本寧夏友好交流協会訪問団が図書館を見学しました。図書館が担う役割に対して多くの関係者からの期待がよせられています。

   



■寧夏で科研調査を行いました

 伊藤勝久共同研究所日本側所長が代表者を務める「中国低開発農村の持続可能な新システムの形成と定着に関する研究」科研の調査が、10月24~25日、寧夏回族自治区紅寺堡及び塩池県で行われ、中国側カウンターパートの先生の案内で、事前にアンケート調査を行った村の様子を実際に確認しました。
 24日に訪れた塩池県では、花馬池鎮及び王楽井郷を訪問し、養羊農家の養殖場を見学し、農家の方から説明を受けました。25日に訪れた紅寺堡では、移民村である開元村で蘭鳳秀村長と面会して村の状況をうかがったり、壱加壱農業合作社の漢方薬や野菜の栽培基地を見学したりしました。蘭村長は、「移民してきたばかりの頃はこの辺りには何もなく、砂ばかりだったが、植林によって砂地を治理し、政府によって黄河の水を引いた用水路も建設され、農業ができるようになり、羊や牛も飼えるようになった。政府の移民政策は非常に成功した。」と話していました。

   



■共同研究所年報 第6号を発刊

 島根大学・寧夏大学国際共同研究所年報の第6号(2012年度版)を発刊しました。内容の閲覧は研究所HP「概要 < 研究所のあゆみ」ページをご覧ください。PDFデータを掲載しております。
 研究所HP「概要 < 研究所のあゆみ」http://www.ningxia.shimane-u.ac.jp/ayumi.html







■島根大学が寧夏大学卒業生向けの奨学金制度を開始

 島根大学は、株式会社日新の支援を受け、2013年度から寧夏大学の学生向けに奨学金制度「日進グループアジア留学生奨学金」を開始しました。この制度は、奨学金受給だけでなく、在学中の日新グループでインターンシップ等、企業とのタイアップを活かした、将来的な就職を見据えたものとなっています。今年度は、2名の募集枠に対して寧夏大学農学院や経済管理学院、外国語学院等から20名以上の学生が応募し、その中から寧夏大学外国語学院日本語科卒業のシュウ・ユカンさんとテイ・ギョウタンさんが選ばれました。





■島根県と寧夏回族自治区が交流20周年を迎えました

 今年、島根県と寧夏回族自治区が友好協定締結20周年を迎え、10月には寧夏で、11月には島根でそれぞれ記念活動が行われました。
 島根県と寧夏回族自治区は、1993年10月に友好協定を結び、相互訪問や交流員の派遣、自治区内の緑化活動等、様々な交流を行っています。






第五回 固原市

 固原市は自治区の南部に位置し、原州区(市中心区)及び四県(世西吉県、隆徳県、涇源県、彭陽県)を管轄しています。

◆◆歴 史◆◆
旧石器時代 古代人が生活(彭陽県に遺跡)。
紀元前114年 漢の武帝が高平城を築く。
569年(北周時代) 原州城が築かれる。
1936年 八路軍が固北県蘇維埃政府を立ち上げる。
1939年 海固事変(固原・海原の回族が3回謀反を起す)
1953年 甘粛省内に固原回族自治区が成立。
1955年 固原回族自治州に改称。
1958年 寧夏回族自治区成立。固原回族自治州から固原専区に。
2002年 固原市が正式に成立。(当時は海原県を管轄に含む)
2003年 海原県が中衛市の管轄に。
中衛市発表データ(2011年)
面積 13,450.23㎢
総人口 126.4281万人
回族人口 57.82万人
(総人口の45.73%)
全市GDP 158.45億元
都市住民一人当たりの
年間可処分所得
16,854元
農民一人当たりの
年間純収入
4,690.46元
全社会固定資産投資 154.10億元
地方財政一般予算収入 10.33億元
(数値は全て2013年寧夏統計年鑑による)

◆◆地理的状況◆◆
 固原市は、寧夏回族自治区の南部六盤山地域に位置し、甘粛省に接し、西安、蘭州、銀川の3都市を結ぶ三角地帯の中心に位置する。地勢は、黄土高原の西北の端に位置し、南部が高く、北部が低くなっており、海抜は大部分が1320~2928メートルに位置する。六盤山山脈が南北に走り、主峰美高山の海抜は2931メートルである。

◆◆気候◆◆
 気温は高く、降水量は低い。日照は充足している。全市の年平均気温は6.8~8.8℃で、年の降水量は327.7~612.7㎜である。乾燥しており、春は風による砂害や乾燥低温凍害が起こりやすく、夏は局地的な雹等強対流天気が多い。

◆◆産   業◆◆
▶ 鉱物資源
 金属鉱物の貯蔵量は少ないが、非金属鉱物の貯蔵量は豊富で、石膏、石英砂、石炭、石灰岩等が産出される。また、六盤山盆地には油田及び天然ガス田がある。

▶ 農 業
 農作物は小麦と主とし、馬鈴薯、豆類、粟、蕎麦等、秋に収穫する穀物が多い。そのうち馬鈴薯の植え付け面積は252.36万ムーで、馬鈴薯澱粉及びその製品の年間生産量は15万トン以上に達する。中国最大の馬鈴薯生産基地の一つである。経済作物として、食用油生産用の亜麻を生産している。

 



■人とともに地球とともに –環境教育の重要性-  松本一郎(島根大学教育学部)

講義中の筆者
 【プロローグ】はじめて中国を訪れたのは、20年前(1994年)のことでした。当時は資源・環境関連の企業に勤めていた私は、鉱山の廃水処理対策にかかわる専門家としてJICAから派遣されました。当時は、大地の事(鉱物資源)、水資源の事(環境問題)を考えながら、日中の双方の研究者が協力して仕事を進めました。その中から、お互いの信頼関係の重要さを学びました。また、食事の際での杯を交わしながら深まる友情(友好関係)がとても印象的でした。

 【プロジェクト研究へ】島根大学に勤めて14年が経ちます。大学では地球資源や環境問題などの化学的な研究を行い、大学生には理科・環境教育を教えています。2年前、島根大学・寧夏大学国際共同研究所・所長の伊藤勝久先生から、共同研究チームへの参加を依頼されました。その際、「環境教育をお願いしたい」と言われました。伊藤先生とは、大学の「環境問題通論」という授業で共同運営をしていた事もあり「はい」の2つ返事で即答させて頂きました。再び、雄大な中国へ、食文化の中国へ、環境教育の推進・研究に向けて働く事を大変嬉しく思いました。

 【環境教育の重要性】「環境」という言葉は、解釈の幅が広く、宇宙から家庭の中での生活までをその言葉・視点で捉える事ができます。ここで、重要な事は私たち人類は、この地球上で共存し、自然環境を維持しながら経済を支えていく必要があるという事です。専門的・科学的な探究・研究(商品開発など)は、私たちの生活を豊かにしてくれますし、酪農を含めた農業や林業、漁業などについても、科学的な進歩・発展により新たな展開が期待されます。経済の発展は大事です。ただ、その基礎には、「地球」が存在するという条件があります。今後50億年は、惑星としての地球は存在しているでしょう。しかし、「人間が住める地球」という意味では、現状は危機的な状況です。経済は大事ですが、それを国や地域の文化を含めて、地球環境を損なわないように活動する事が求められているのです。人類は、その気になれば如何なる困難にも打ち勝つ強さを持つと信じます。この「その気」という部分が、何事にも重要です。だからこそ、環境問題を議論する時に「教育」という部分が強調されると考えます。ESD(持続可能な社会の発展のための教育)という言葉も最近では良く耳にします。環境に対する「知識」を学ぶ事は大切ですが、それらの知識を用いて、「行動」に移す事が必要であるとすると、その原動力としての「意識」は、最も重要だと私は考えています。私は、この「意識(in)」「知識(about)」「行動(for)」という側面から環境教育を考えています。
寧夏の羊肉

 【エピローグ】中国、寧夏との「環境教育」という分野での共同での研究・教育は、世界中の環境教育を進めていく上での一つの好事例(研究)になります。なぜなら、今や世界経済を牽引する力を備えた中国にあり、加えて人口でみると世界の4人に1人は中国人です。つまり、この地域・国が、行動に移せるような「環境教育」の推進は、世界・地球の環境の維持・発展にとって大きな鍵となるからです。地球のため、日中両国の未来のためにも「環境教育」分野の連携・協力を大切にしたいと思います。夢を語りましたが、この夢の実現のためにも、本プロジェクトを通して友好を深め、環境教育の推進に寄与できればと考えています。




このコーナーでは、中国の研究雑誌等から選出した論文の日本語訳を掲載します。

■黄土丘陵区における退耕灌木林の炭素固定様相:  劉濤1 党小虎2,3 劉国彬4 劉宝軍3 邵伝可3
1 西北農林科技大学林学院,2 陝西師範大学旅游与環境学院,3 西安科技大学地質与環境学院,4 中国水利部水土保持研究所
≪西北农林科技大学学报(自然科学版)≫ 2013年9月号(vol.41)より

要旨:
【目的】炭素固定能力の強い灌木樹種を選択し、それらの植栽普及を目的として、寧夏隆徳県における3種類の灌木林の炭素固定能力を比較した。
【方法】寧夏隆徳県退耕還林実施区において、樹齢7年の沙棘(Hippophae rhamnoides)、檸条(Caragana korshinskii)、山毛桃(Prunus davidiana)の灌木林について、調査地の灌木層と草本層のバイオマスを定量した。地上0㎝から地下100cmの土層サンプルを採取し、土壌の密度および、灌木層、草本層、土壌層の炭素含量を測定し、3種類の灌木林それぞれの蓄積炭素量の変化を分析した。
【結果】沙棘、檸条、山毛桃の炭素量はそれぞれ63.29、52.82、77.78t/hm2であり、その炭素量の空間分布構成はほぼ同程度であった。炭素量の割合が最も高いのは土壌層で、それぞれ88.56,87.44および87.44%、次いで灌木層であり、それぞれ10.18,11.25および12.16%であった。草本層の生態系での炭素分布割合は最も低く、それぞれ1.26,0.97および0.40%であった。0–100cmの土層において、土壌層の炭素量は土層の深さと相反して低下し、また、山毛桃の土壌層炭素量(68.01t/hm2)は沙棘林(56.05t/hm2)および檸条林(46.37t/hm2)より高かった。
【結論】3種類の灌木の中では、山毛桃の炭素固定能力が最も高く、山毛桃の植栽により、土壌中に炭素を多く固定することが可能であることが示された。
キーワード:黄土丘陵区 灌木林 生物量 炭素量 炭分配 固炭能力

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■新着図書紹介

このコーナーでは、研究所に新しく登録された図書の一部を紹介します。


『在中日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由』
在中日本人108人プロジェクト 編

阪急コミュニケーションズ・2013年8月

 2012年9月の反日デモ激化から1年。今も現地に住み続ける日本人たちが語った、中国の現実、中国人の本音、そして日中関係の行方。戦後最悪ともいわれる日中関係のなか、彼らはいったいどんなふうに中国を見てきたか。マスメディアの報道だけでは知ることのできない、108人の中国在住日本人の証言。
※当研究所の田中研究員も執筆に参加しています。




宁夏统计年鉴2013(寧夏統計年鑑2013)』
寧夏回族自治区統計局、国家統計局寧夏調査総隊 編

中国統計出版社・2013年10月

 寧夏の経済と社会発展に関する総合的かつ系統的、客観的な年刊資料。寧夏の地域事情の研究、社会情報の収集、政策の制定等に欠かせない書である。2012年の寧夏の経済・社会各方面に関する統計データ、寧夏各市・県(区)の主要統計データが掲載されている。





中国统计年鉴2013(中国統計年鑑2013)』
中華人民共和国国家統計局 編

中国統計出版社・2013年10月

 中国各省・自治区・直轄市の、人口、就業、所得、固定資産投資、対外経済貿易、エネルギー、財政、物価指数等、経済・社会各方面に関する2012年の統計データを収録。中国の経済と社会発展の状況を総合的に反映した年刊資料である。







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