■黄土丘陵区における退耕灌木林の炭素固定様相
   劉濤1 党小虎2,3 劉国彬4 劉宝軍3 邵伝可3
1 西北農林科技大学林学院,2 陝西師範大学旅游与環境学院,3 西安科技大学地質与環境学院,4 中国水利部水土保持研究所
≪西北农林科技大学学报(自然科学版)≫ 2013年9月号(vol.41)より


■緒言
 地球温暖化の影響により、世界の灌木林の分布範囲が拡大されている[1]。中国は世界でも灌木林が最も広く分布している国の一つで、国内の灌木林面積は2億hm2[2]近く、国内の陸地面積の20%を占め、全国の現存する森林面積の2倍近い。そのため、中国の灌木林の炭素シンク能に関する研究は、中国陸地における生態システムの炭素固定量を評価するうえで重要な意義を持つ。1970年代末からスタートした三北防護林プロジェクトや退耕還林、および天然林保護プロジェクト等の大規模な生態回復プロジェクトは、主に黄土丘陵区に広く分布しており[3]、沙棘、檸条、山毛桃が植栽され、主な退耕還林の灌木樹種となっている[4-6]。
 現在、山毛桃の炭素固定能力についての研究報告例はなく、沙棘、檸条の炭素固定能力についての研究も少ない[7~10]。また、既往の研究ではそれぞれの研究地域や林齢が異なるため、成果の比較は困難である。そのため、本研究では、退耕還林が実施された同一地域において、林齢が等しい沙棘、檸条、山毛桃の灌木林生態システムの炭素量と分布について調査し、3種類の灌木林の生態システムの炭素固定能力を比較することにより、黄土丘陵区の生態回復に適した灌木樹種の検討を行った。
 
  ■材料および方法
 1.調査地の概要
 寧夏隆徳県は中温帯モンスーン地域の半湿潤・半干ばつ気候で、年平均気温は5.1℃、最寒月は1月で最低気温-25.7℃、最暖月は7月で最高気温31.4℃である。年平均日照時間は2228時間、無霜期は124日である。年平均降水量は502mm前後で、主に夏と秋、特に7~8月に集中している。災害性天気は主に強風、旱ばつ、雹、霜害等がある。主な土壌類型は黄綿土である。本研究の沙棘(H.rhamnoides)人工林の実験対象地には、海抜2084~2135m、斜度約11~25°の廟湾鎮(106°3′E、35°41′N)を選んだ。廟湾鎮は典型的な黄土丘陵地形類型であり、林齢は7年で、胸高直径1.84cm、樹高は平均99.44cmであった。檸条(C.korshinskii)人工林の実験対象地には、海抜2114~2123m、斜度約19~25°の楊磨鎮(106°3′E、35°44′N)を選んだ。同様に典型的な黄土丘陵地形類型で、林齢7年、胸高直径1.33cm、樹高は平均149.73cmであった。山毛桃(P.davidiana)人工林の実験対象地には、海抜2064~2104m、斜度約11~25°の沙塘鎮(105°59′E、35°36′N)を選んだ。やはり同様に典型的な黄土丘陵地形類型で、林齢7年、胸高直径2.88cm、樹高は平均155.42cmであった。
 
 2.調査区の設定
 2011年8月、寧夏隆徳県の廟湾鎮、楊磨鎮、および沙塘鎮において、それぞれ樹齢7年の沙棘、檸条、山毛桃の典型的分布地を一箇所ずつ選び、各分布地の傾斜面を上、中、下に分け、10m×10mの調査プロットをそれぞれ一箇所ずつ設定し、各プロットに、2m×2mの調査灌木区を設定した。
 各灌木サンプルについて、刈取り法によりバイオマス量を測定した。まず、対象灌木の原物重量を葉、枝、根の器官ごとに分けて測定した。それぞれサンプルを採集し、80℃で予乾後、105℃の恒温乾燥器で恒量に達するまで乾燥させて水分含量を計算し、各サンプルの乾物量に換算した。また、それぞれの植物を地上部分と地下部分に分け、各部のサンプルを恒量まで乾燥させ、分析用サンプルとして保存した。
 
 3.土壌サンプルの採集と処理
 灌木実験対象地内において、内径5cmのドリルを用い、0-10、10-20、20-30、30-50、50-100cmの層ごとに3点のサンプルを採取し、混合サンプルに調製した。灌木サンプルを採取した同一層(2m×2m) 3箇所から土壌サンプルを採取した。土壌サンプルは目開き0.25㎜の分析篩を用いて篩分し、有機態炭含有量を測定した。実験対象地のうち、一切人の手が入っていない、自然のままで且つ植生構成と土壌の最も代表的なところを選び、深さ100cmの土壌断面を一箇所掘り、断面に沿って、0-10、10-20、20-30、30-50、50-100cmの層からそれぞれ土壌サンプルを採取し、土壌密度を測定した。また、植物と土壌の有機態炭含有量をそれぞれ重クロム酸カリウム‐硫酸酸化法およびK2Cr2O7容量法[11]によって測定した。
 
 4.炭素量の測定
 植物の異なる器官の単位面積(hm2)当たりのバイオマス量とその炭素含量の積がそれぞれの器官の炭素固定量、各器官の炭素量の和が灌木層の総炭素固定量とした。灌木層、草本層、および土壌層の有機炭素固定量の和は生態システム中の総炭素固定量とした。
 
 5.データ処理と分析
 データは平均値±標準偏差で表示した。得られたデータはSPSS 20.0を用いて分散分析を行い、最小有意差法によって平均値間の差を5%水準で検定した。
 
■結果
 1. 灌木林の植生層の炭素量とその分配
 表1と表2に示すように、灌木の異なる器官における蓄積炭素の分配割合は、各器官のバイオマス量とほぼ比例する結果となった。3種類の灌木において、器官の炭素固定量は、枝>根>葉の順であった。枝が灌木層の総炭素固定量に占める割合は、沙棘、檸条、山毛桃についてそれぞれ63.35,63.80および76.36%であった。沙棘および檸条の根の炭素固定量は、それぞれ総炭素固定量の27.33および26.26%に相当したが、山毛桃の根の炭素固定量は、16.43%であった。表3に示すように、植生層のバイオマス量と炭素固定量の空間分布は灌木の種類によって差がみられた。灌木層は植生の炭素固定量の主体で、沙棘、檸条および山毛桃の灌木層炭素固定量は、それぞれ6.44,5.94および9.46t/hm2で、植生層炭素固定量の88.95,92.09および96.83%を占めた。草本層の炭素固定量は低く、沙棘、檸条、山毛桃の草本層炭素固定量はそれぞれ植生層炭素固定量の11.05,7.91および3.17%であった。山毛桃人工林の植生層の炭素固定量は9.77t/hm2で、沙棘、檸条のそれぞれ1.35倍、1.51倍であった。
 


 2. 灌木林の土壌層の炭素固定量
 灌木林の枯枝と落葉および動物植物の残体が林地土壌有機態炭素の源であり、気候や生物等の作用により、林地土壌は様々な層構造が形成され、その有機炭含有量も土壌の深度により異なる。
 表4に示すように、3種類の灌木林土壌層の炭素固定量は土層が深いほど低下した。これはおそらく上層部は土壌生物の生息密度が高いため、有機炭の蓄積量が多くなったと推察される。山毛桃林の土壌層炭素固定量(68.01t/hm2)は沙棘林(56.05t/hm2)、檸条(46.37t/hm2)より高く、それぞれの1.21倍および1.46倍となった。

 3. 灌木林の炭素固定量
 表5に示すように、7年生の沙棘人工林生態システム炭素固定量は63.29t/hm2で、そのうち土壌層の炭素固定量が56.05t/hm2で最も高く、総炭素固定量の88.56%を占めた。草本層の炭素固定量は最も低かった。植生層と土壌層の炭素固定量の比率は1:7.74であった。檸条人工林生態システムの炭素固定量は52.82t/hm2で、そのうち土壌層の炭素固定量が46.37t/hm2で最も高く、総炭素固定量の87.79%を占めた。その次は灌木層の5.94t/hm2で、総炭素固定量の11.25%を占めた。草本層の炭素固定量は0.15t/hm2で、総炭素固定量の0.97%にすぎなかった。植生層と土壌層の炭素固定量の割合は1:7.19であった。山毛桃人工林生態システムの炭素固定量は77.78t/hm2で、その内土壌層の炭素固定量が68.01t/hm2で最も高く、総炭素固定量の87.44%を占めた。その次は灌木層の9.46t/hm2で、総炭素固定量の12.16%を占めた。草本層の炭素固定量は0.31t/hm2で最も低く、総炭素固定量の0.40%であった。植生層と土壌層の炭素固定量の割合は1:6.96であった。以上の結果により、林地は大きな炭素シンクタンクの機能を有することが示された。
 

 
■考察
 灌木層は植生炭素の主体となる。本研究の結果では、山毛桃の灌木層炭素固定量は9.46t/hm2であり、沙棘、檸条のそれぞれ1.46倍、1.59倍であった。植物の炭素固定量は主に植生のバイオマス生産量と密接に関連している[12]が、本研究の炭素固定量とバイオマス量は正比例関係が認められた。山毛桃植生層の炭素固定量が沙棘や檸条より高いのは、おそらく山毛桃のバイオマス量増加スピードが速いためと推察される。山毛桃は発達した側根と主根を有し、放射状に伸長し[6]、かつ成長スピードが速く、一年目に40~50cm、二年目には1.5mまで伸びる。また、山毛桃は枝が茂る能力も強く、剪定後も枝が繁茂する[13]。さらに、造林密度[14]や生長段階[15]等多くの要因も炭素固定量に影響を及ぼす。本研究の中で、沙棘のバイオマス生産量と炭素固定量は檸条よりやや多いという結果になったが、これに対して、劉占徳氏ら[16]の研究結果は生長年数7~9年の沙棘のバイオマス生産量(33.83t/hm2)は檸条のバイオマス生産量(4.07t/hm2)の8.31倍と報告している。これは、おそらく本研究の2種類の灌木林の栽植密度の差に起因すると考えられる。また、本研究における沙棘および檸条のバイオマス生産量が、何亜龍氏ら[17]の研究結果より高いことは、本研究の灌木林の年数が長いことと関連していると思われる。
 本研究では、山毛桃の林下草本層炭素固定量が、沙棘、檸条のそれより低かった。これは、山毛桃の灌木層のバイオマス生産量が高く、また空間容積が大きく、成長能力が高いという競争的優勢を持つため、林地内の草本層のバイオマス生産量と炭素固定量を低下させたと考えられる。
 本研究における3種類の灌木林生態システムは、炭素固定量が大きい順に、山毛桃(77.78t/hm2)沙棘(63.92t/hm2)、檸条(52.82t/hm2)となり、そのうち、檸条の生態システムの炭素固定量は陳伏生氏ら[17]が江西泰和県丘陵の傾斜面の荒漠した灌木草地で実施した研究結果(52.82t/hm2)とほぼ同じであった。また、本研究の3種類の灌木林生態システムの炭素固定量は、王蕾ら[18]が黄土高原の8年生人口林に関する研究結果に近い値であった。土壌層の蓄積炭素は生態システム全体の蓄積炭素の主体であり、土壌の中の有機炭が植物の地上部分の枯枝と落葉からのインプット以外に、植物の根の分泌と凋落から得たものであり、植物の根の分泌と凋落から発生した有機態炭素も、土壌炭素の重要な源の1つである[19]。本研究の3種類の灌木林地の土壌層炭素固定量の変化傾向とそのバイオマス生産量は一致しており、山毛桃>沙棘>檸条の順であった。本研究結果より、土壌層炭素固定量は、植物の地上部分の枯枝と落葉、および植物の根からの分泌と凋落物量からの影響が強いことが示された。
 
■結語
 1)灌木層は蓄積炭素の主体であり、沙棘、檸条、山毛桃の灌木層の炭素固定量はそれぞれ6.44、5.94、9.46t/hm2で、植生炭素固定量の88.95%、92.09%、96.83%を占める。草本層の貢献率は比較的低い。
 
 2)土壌層は生態システムにおける蓄積炭素の主体で、山毛桃林地の土壌層の炭素固定量(68.01t/hm2)は沙棘林(56.05t/hm2)および檸条林(46.37t/hm2)より高く、それぞれの1.21倍および1.46倍となった。土壌層の炭素固定量は土層の深度に伴い低下する。
 
 3)山毛桃人工林の生態システム蓄積炭素固定量(77.78t/hm2)は最も高く、それぞれ沙棘林(63.29t/hm2)および檸条林(52.82t/hm2)の1.23倍および1.47倍となり、山毛桃が炭素固定能力の強い灌木林であることを明らかにした。よって、山毛桃をある程度多く植林することは、空気の中のCO2の固定に有利であることが明らかとなった。
 
 
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