島根大学・寧夏大学国際共同研究所日本側事務局 2012年12月 発行  


 子は鎹(かすがい)。落語でも語られる有名な言葉である。

 日中の国家関係が悪化している。反日デモの様子を見て、眉をひそめる日本側の気持ちもあろう。中国側からすれば、たかだか60年ほど前に傍若無人な振る舞いをして多大な被害をもたらした隣国が、現在世界中で暴れまわっている無法者(国)と仲良く手を結んで強化しようとしているのだから、不審感を募らせるのも無理はない。

 ありふれた言い方ではあるが、このような時こそ民間レベルでの交流が一層重要になる。島根大学・寧夏大学国際共同研究所も、日中間に存在する無数の鎹の一つとして今こそ力を発揮しなければならない。寧夏と島根大学の交流は25年目を迎えようとしている。鎹のなかでも年季の入ったものであり、手前味噌ながら大切な鎹の一つと胸を張って良いだろう。

 かつて「戦略的互恵関係」という言葉が使われた。見解の相違や腹の中はいろいろあっても、相互に利用価値が高いので都合のいいように利用し合いましょう、という意味だろうか。数年前に語られたこの言葉は、今回の事態の中で無力であった。

 本研究所では、紆余曲折を経て、「戦略的互恵関係」を含みながらも、その域をすでに越えて、相互信頼を築き、研究所としての機能を強化してきたと自負している。交流初期の友好関係やその後の蜜月関係を経て、研究所の運営や管理をめぐって、時には意見の相違などもぶつけ合いながら、本来的な信頼関係を一歩ずつ築き上げている。もちろん、そうしたプロセスの中で、文化的な違いや誤解から、お互いにたくさんの気苦労を経験してきたのだが、だからこそ真の信頼関係が構築され、日中間の強力な鎹としての役割を果たせるのだと思う。

 今後の研究所の展開のあり方として、ハイレベルな意義ある研究拠点としてはもちろんだが、日中間の大きな鎹としての存在感、社会的意義も強化・追求していきたい。
 

2012年12月 島根大学・寧夏大学国際共同研究所 副所長 関耕平






■伊藤所長代表の科研プロジェクトが始動
 当研究所の伊藤勝久所長を代表者とする「中国低開発農村の持続可能な新システムの形成と定着に関する研究」が日本学術振興会の平成24年度基盤研究(B)(海外学術調査)に採択され、当研究所を研究拠点として、プロジェクトが始動しました。このプロジェクトでは、次の3点を研究目的とし、農村社会、農牧業生産、農民の実態研究から新システムを構想します。
 (a) 地域適合的な農林牧業システム、環境対策の検討開発
   各地域条件に合った農民専業合作社・地域優勢産業の形成、農民小金融の普及を通じて、農牧業生産、流通システム、農民の自発的なシステムを形成する方法の検討、及び自然環境と生産を両立する農村環境対策の検討。
 (b) 持続可能な新農村社会システムの制度設計の示唆
   農村社会の変容を経済的側面とソーシャルキャピタルの賦存状況から分析し、その成果から望ましい制度設計を検討し、中国側共同研究者を通じて地方政府へ働きかける。
 (c) 環境教育による社会・環境意識啓発
   地域の農民(文盲も多い)に対して環境教育を実施する効果的方法論を農村農民調査より検討し、モデル農村を設定して地方政府の協力の下で、社会実験を実施。新システムや環境対策が農村状況をふまえた必然性として定着する方法を検討する。

   



■2012年度研究奨励助成の対象者決定
  島根大学・寧夏大学国際共同研究所に係る研究者に対する研究奨励助成の2012年度(第5年度目・最終年度)の対象者が決定しました。この助成事業は、島根大学と寧夏大学の学術交流20周年を記念し、島根大学によって創設されたものです。今年度は寧夏大学から6件の応募があり、その中から次の3件が助成対象に選ばれました。

 張 玲 (寧夏大学教育学院・情報技術部・教授) 20万円
「寧夏南部山区における基礎教育の均衡発展に関する研究――海原県を例にして」
《研究概要》
 本研究は教師の教学レベルの向上によって教育質を高め、農山村の教育持続可能な発展を促進する。
 宋 麗華 (寧夏大学農学院・林業学・教授) 18万円
 「寧夏におけるバイオエネルギー樹種資源に関する調査と分析」
《研究概要》
 寧夏におけるバイオエネルギー利用価値のある樹種(品種)資源に対する調査と分析評価を通じて、地元の優良バイオエネルギーの樹種を選別し、利用方法と対策を提出して、寧夏地域の木本植物エネルギーの開発と利用に参考を提供する。
 劉 学武 (寧夏大学西部発展研究中心・講師) 20万円
「耕地無付与の生態移民移転方式についての研究」
《研究概要》
 耕地無付与の生態移民移転とは、移民を移転させる際に、耕地を分配せず、城鎮(都市部)や工業団地、産業基地に移住させ、労働者として賃金を得て家族の生活需要を満足させることを指している。
◎奨励助成制度詳細はこちらをご覧下さい→ http://www.ningxia.shimane-u.ac.jp/josei/2012/12joseiketei.html



■現地駐在研究員が六盤山友誼賞を受賞

 当研究所の日本側職員として現地に駐在している田中奈緒美研究員が、2012年度「寧夏回族自治区六盤山友誼賞」を受賞しました。六盤山友誼賞とは、寧夏回族自治区の経済・社会発展に積極的に貢献した外国人専門家を表彰する賞で、寧夏に滞在する技術者、管理業務者、教師等から選ばれ、寧夏の外国人専門家に対する最高賞にあたります。
 田中研究員が寧夏に派遣されて4年になりますが、その間の日本語教育による教学効果、及び「日本文化祭り」「日本語コーナー」「日本文化サロン」等の企画・実施に取り組み、寧夏の学生・教職員の日本の文化や社会に対する理解促進に貢献したことが評価されました。
 今年は六盤山友誼賞が創設されてから5回目の選出にあたり、日本人の受賞は6人目となります。



■共同研究所年報 第5号を発刊

 島根大学・寧夏大学国際共同研究所年報の第5号(2011年度版)を発刊しました。内容の閲覧は研究所HP「概要 < 研究所のあゆみ」ページをご覧ください。PDFデータを掲載しております。
 研究所HP 「概要 < 研究所のあゆみ」http://www.ningxia.shimane-u.ac.jp/ayumi.html







■島根大学訪問団、西北農林科技大学を訪問

 6月15日、島根大学訪問団が陝西省楊凌市にある西北農林科技大学を訪問し、友好交流の締結に向けて一歩を踏み出しました。西北農林科技大学では、座談会を開いていただき、主に島根大学生物資源科学部と西北農林科技大学農学院の科学研究成果について紹介し合い、今後の交流の方向性について話し合いが行われました。また、夜には副校長主催の晩餐会が行われ、楽しい一時を過ごしました。今後は、個人のレベルから交流を広げ、学部同士の交流へと繋げていく予定です。





■島根大学学生訪問団が共同研究所を訪問

 9月7日、島根大学中国夏期研修(8月29日~9月8日)の一環で寧夏大学に滞在していた島根大学の学生訪問団(学生4名、引率2名)が当研究所を訪問してくださいました。研究所では、島根大学と寧夏大学との研究交流の歴史や研究所の概要について説明、その後施設内を見学いただきました。訪問団の皆さんは島根大学と寧夏大学の学術交流に興味を持ってくださったようで、熱心に話を聞いてくださいました。今後、訪問団の皆さんのような、若い世代の交流が活発化することを期待しています。









第4回 中衛市

 中衛市は自治区の中央部西側に位置し、沙坡頭区(市中心区)及び二県(中寧県、海原県)を管轄しています。

◆◆歴 史◆◆
3万年前 古代人類が生活
春秋時代 羌戎族の雑居地となる
1403年(明代) 中衛という地名が用いられる
1724年(清代) 寧夏府に中衛県が設置される
1933年 中衛県と中寧県に分かれる
1958年 寧夏回族自治区成立とともに、中衛・中寧は銀川・呉忠の管轄、海原は固原の管轄となる
2004年 中衛市が成立
中衛市発表データ(2011年)
面積 1.7万㎢
総人口 118.12万人
回族人口 40.78万人
(総人口の34.52%)
全市GDP 213.48億元
都市住民一人当たりの
年間可処分所得
15,866元
農民一人当たりの
年間純収入
5,178元
全社会固定資産投資 194.51億元
地方財政一般予算収入 27.98億元

◆◆地理的状況◆◆
 中衛市は、寧夏回族自治区の中西部に位置し、内モンゴル自治区、陝西省と隣接している。地勢は、西・南部が高く、東・北部が低くなっており、平均海抜は1225メートルである。地形は黄河沖積平原、台地、砂漠、山地、丘陵の五タイプからなり、典型的な温帯大陸性モンスーン気候で、砂漠の影響を受け、日照時間が長く、昼夜の温度差が大きい。平均気温は7.3~9.5℃で、年平均相対湿度は57%、無霜期158~169日、年平均降水量は180~367ミリである。

◆◆産   業◆◆
▶ 鉱物資源
 境内の鉱物資源は、主に石炭、石膏、珪石、粘土、石灰、金、銀、銅、鉄等20種類余りに上る。その内、石膏の埋蔵量は約70億トンで、全国第二位を誇る。

▶ 観光業
 市内にある観光地「沙坡頭」は、全国で初めて国家5A級旅行景観区に指定された観光地の一つで、トンゴリ砂漠と黄河が交わる天然の太極図を為している。また、「中衛高廟」は明代に建てられた儒教、仏教、道教という3つの宗教が一体となった廟であり、中国全国建築師学会から「中国古廟の経典建築」と称えられている。その他、寺口子景区、大麦地岩画、一碗泉旧石器遺跡、秦漢明代長城、海原天都山石窟等、多くの観光地がある。

▶ 農 業
 黄河の水を引いた灌漑地区は111ムーに及び、中国西北地域の重要な穀物及び水産品、施設農業(主に野菜)の生産地である。特に、クコ、セレンスイカが優勢特色主導産業である。

 




このコーナーでは、中国の研究雑誌等から選出した論文の日本語訳を掲載します。

■農民工の権益保障問題に関する研究             *王春芳(寧夏財経職業学院)
农业科学研究≫ 2010年第3期より
要旨:
農民工は都市建設の中間的労働力であり、都市と農村の消費を刺激し、都市と農村の地域経済繁栄と経済成長を促進するための重要な手段である。彼らは精一杯働いているが、歴史的な固定観念や、国家政策制度の未整備、及び農民工自身に起因する問題から、彼らの合法権益は保障されていない。今後の経済発展過程において、多種類の措置を取り、農民工の権益保障を強化してこそ、中国経済の良好で急速な発展を促進することができる。
キーワード:農民工 権益 保障問題

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■日本サロンの開館について
 当研究所では、2013年秋を目標に、研究所棟内に日本の図書資料を集めた「日本サロン」を開く予定にしています。もともと、研究所資料室には、様々な方から寄贈された約1000冊の日本語の本がありましたが、それに加え、島根大学の教職員の方々や、出雲市立図書館、(公財)しまね国際センター、島根県、松江市等々の皆様のご協力の下、数多くの図書や資料が集められました。現在はそれを分類・登録している最中です。開館は、2013年秋頃を予定しております。開館の際には、ぜひご利用くださいませ。
■ 図書整理・郵送準備の様子 ■ サロン開館予定地


■新着図書紹介

このコーナーでは、研究所に新しく登録された図書の一部を紹介します。


宁夏统计年鉴2012(寧夏統計年鑑2012)』
寧夏回族自治区統計局、国家統計局寧夏調査総隊 編

中国統計出版社・2012年10月

  寧夏の経済と社会発展に関する総合的かつ系統的、客観的な年刊資料。寧夏の地域事情の研究、社会情報の収集、政策の制定等に欠かせない書である。2011年の寧夏の経済・社会各方面に関する統計データ、寧夏各市・県(区)の主要統計データが掲載されている。






中国统计年鉴2012(中国統計年鑑2012)』
中華人民共和国国家統計局 編

中国統計出版社・2012年10月

  中国各省・自治区・直轄市の、人口、就業、所得、固定資産投資、対外経済貿易、エネルギー、財政、物価指数等、経済・社会各方面に関する2011年の統計データを収録。中国の経済と社会発展の状況を総合的に反映した年刊資料である。







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