■ 農民工の権益保障問題に関する研究
   *王春芳(寧夏財経職業学院)
宁夏农林科技≫ 2010年第3期より

 農民工権益の保護を強化する、つまり、農民工の労働報酬、子女の就学、公共衛生、住宅購入等について、都市住民と同じ待遇を享受できるよう徐々に改善し、農民工の労働条件の向上、労働安全衛生の保障、就労中の傷害保険(労災)、医療保険、養老保険の範囲を拡大して、農民工の養老保険関係の移転手続き方法を速やかに制定・実施するという方針が、中国共産党第十七回第三次全体会議で明確に示された。都市と農村の社会管理を統一し、戸籍制度改革を行い、農民工の中小都市への戸籍転入条件を緩和し、都市で安定した就業先と居住条件を持たせ、農民を都市住民として扱う。農民工の権益保障問題は、今後中国の小康社会確立において、実現しなければならない重要な事業である。

1.現段階で農民工の権益が深刻に損なわれている実態
 1.1 経済的権益1
  長年に渡って、農民工の給与の全体的な水準は低い。また、一般的に、同じような仕事でも給与が一定でないという問題がある。労働賃金が予定通りに支払われず、雇い主の都合で支払いが延期されたり、上前をはねられたりするという問題も深刻である。問題の種類も多様で、一部のひどい場合には、給与が支払われず、故郷へ帰る旅費のみの支給、或いは、その旅費すら支給されない場合もある。一部の企業では、保証金として、農民から700~2000元を徴収する、或いは、1~2か月分の給与を支払わないという例もある。またある企業では、農民工に生活費だけを支払い、給与の大部分は幹部が握っており、何かと理由を見つけて農民工を処罰し上前をはね、その不満から農民工が離職した場合は、その間の給与を請求するのは難しい、といった状況も見られる。

 1.2 労働権益
  農民工が就くことのできる業種が制限され、休日に休む権利が奪われ、作業環境及び生活環境が悪く、労働の安全が保障されておらず、社会保険と社会福祉の権利も奪われている。農民工が都市部で就職するのは難しく、政府の政策によって制限されたり、求人企業から差別されたりすることもあり、このような制限と差別は農民工の平等な就業権利を非常に損なっている。農民工は長時間労働力とみなされ、作業時間が長すぎて、負担が大きすぎる。都市部の戸籍を持っていないため、都市住民から差別され、正社員や労働組合の組員になれない。「同じ職場で異なる労働時間」、「同じ労働時間で異なる労働権利」という現象が一般的になっている。

 1.3 社会権益2
  社会における差別により、生活は味気ないものになり、いつも気分が沈んでいる農民工が多い。農民工自身の教育及び子女の就学について差別を受けている。住宅問題の解決も難しい。都市住民はもともと優越感があり、言語や行動上において、明に暗に農民工に対する差別感情を表す事が多い。

2.農民工の権益が損害される原因の分析
 2.1 歴史的原因
  数千年の封建統治において、伝統的で自然発生的な経済活動を行ってきた中国では、都市部と農村部及び各村の間に隔たりが大きい。改革開放前の中国では、中央集権型の計画経済体制が実行されていたが、伝統的な各地域の隔たりを変えられなかっただけでなく、農業によって工業の発展を支えるという政策により、都市と農村の格差の拡大、不均等な発展が進んだ。また、遅れた戸籍管理制度により、都市と農村の分離が強化され、農民は都市に働きに出る場合、農民工になった。この、農民から農民工になることは本来、例外的であり、しかも制度によって保護されていない。戸籍管理制度により中国公民は異なる身分に分けられる。つまり、農業戸籍と非農業戸籍、常住戸籍と臨時戸籍である。戸籍の種類によって待遇も異なっており、都市と農村の隔離を強化した。中国における都市と農村の関係において採用しているのは、「一国二策」、即ち都市、都市部住民に対する政策と、農村、農民に対する政策のダブルスタンダードである。改革開放前、国家が計画経済体制を実行していたため、今に比べて都市と農村での生活レベルは比較的差がなかった。国家体制の弊害が農民の権益に与える損害は計画経済と政府の宣伝によって覆い隠され、都市と農村間の実際の不均等は政治的プロバカンダによって覆い隠された。
  改革開放後、国家は都市・農村問題に関する政策の一部を調整し、都市・農村経済の発展をもたらした。しかし、根本的には「一国二策」の局面は変わっていない。「一国二策」は農民工の権益が損なわれた一つの重大な原因である。

 2.2政策制度による原因
  社会の公正な制度とは、まず第一に全ての人民に対して平等な基本的自由権利が有効に保障されており、その上で、公民の権利と義務が統一されたものである。現在、中国の法律の不備から、一部の農民工の権利が失われ、関係法律がないという状況である。不十分な法律や規定により、法律の執行も十分といえず、法律が意味をなさず、制度の公正性が実現できていない。改革開放後、中国の法律は大きく進歩し、各領域についての法律や規定ができ、各社会集団が関係法律に保護されるようになったにもかかわらず、農民工の社会集団だけが今でも保護されておらず、農民工は法律を利用して自らの権利を守ることができない。1995年から実行された「中華人民共和国労働法」は労働者権益を保護する基本法である。しかし市場経済の深化発展と農村の都市化、産業化の急速な発展に追いつかず、「労働法」は大まかな原則しか決められていない。特に農民工の権益の特徴に関する具体的規定が乏しく、農民工権益の保護、労働関係に対する法律保護等が非常に乏しいことが明確になってきた。
  中国の司法環境は理想的ではなく、法律を利用して権利を守る際のコストやリスクが高い。労働監察局、都市管理局(城管)、公安局、工商局等の行政執法人員が農民工に対して差別的で、法律の執行が公正・厳格でない、或いは、農民工の権益が損なわれた時、何もしてくれない。これは農民工の法定権利が現実的な利益にならない重要な原因である。農民工は自分の権利が侵された際でも、法律によって自分の権利を守るのが怖い、或いはしたくないと考えている。

 2.3政府と社会の原因
 2.3.1 政府は農民工の権利を守ることに最善を尽くしていない
 政府、企業、個人の三者間では以下のような関係性にある。政府は、企業・事業者の経営と労働者の労働を通して利益を得ると同時に、企業・事業者や個人の活動を規範付けたり、利益を守る。企業・事業者は、政府による有利な政策を利用し、不利な政策を避けて、労働者から最大利益を得るため搾取する。労働者個人は、企業から不利な条件を受け続けながら最大利益を獲得しようとし、一方で政府の力を借りて自己を守る、という関係性を持っている。三者間において、政府は自らの利益を守る以外に、企業・事業者と労働者とのバランスを考慮しなければならない。もし政府の考慮が足りなかったら、社会利益の配分状態が不公平になる。現在の農民工の状況は、この三者間で最も損害を受けている。
 2.3.2市民と農民工の異なる生活環境が、農民工に対する排斥を強化
 農民工は農村部から来たが、都市部に融合しようとする願望が強く、都市住民とともに平等な生活を送りたい、一緒に都市の未来を創造したいと考えている。一方、都市部の住民は、農民工の大量の侵入に対して、本能的に防衛・警戒心を持っている。都市部の住民は、農民工を自らのグループに入れたくないと考えており、彼らの心の中では、農民工は部外者であり、二等公民である。都市部の住民は、農民工の生活方式、生活習慣、及び方言について嘲笑している。このような不健康な文化的心理も、農民工の社会権益に損害を与える一つの原因である。
 2.3.3司法、行政による管理制度による弊害
 農民工権益を損害するいくつかの原因:①法規定をみると、農民工が属する暫住人口については「合法的権益が法律によって守られる」という原則性権利と「暫住証は不法に差し押さえられない」という具体的な権利を持つ。しかしながら、その他の領域について具体的な権利があるとは言えない。また、彼らの権利が侵された場合、具体的な訴訟対象がない。つまり権利侵害があっても、彼らの義務と権利のバランスは取られない。②具体的に法律の執行と司法の実践の観点からみると、関係部門は農民工がどんな利益要求を持っているか、あまり関心を持っていない。ただ単に、関係証明書の発行や費用の徴収、罰金の徴収のことばかり考え、基準を超えて費用を徴収したり、何かにつけて罰金を徴収することがよく見られる。管理部門の言い分は、「徴収を通して管理を促進し」「罰金を通して管理を促進する」ということであり、農民工に対する行政サービスはあまり考えられていない。③管理体制の動向からみると、都市が管理を強化するのは、農民の流動は管理秩序を乱すもので、社会の不安定要素だとの理由からである。一定の社会秩序を粛正した後、矛先を農民工に向け、農民工が都市の社会秩序を乱すこと防ぐことが必要だというのである。

 2.4 農民工自身の原因
 2.4.1農民工は伝統観念が強く、法律意識が薄く、自己防衛意識が低い
 中国の基層社会、特に郷村社会つまり村では、今でも基本的に「顔なじみ社会」である。人々は長い間ずっと一つの地域で生活、或いは一つの部門で働いているため、さまざまな面で相互につながっており、相互依存の社会関係を形成している。人々は一般的なもめごとにおいても、厳格に法律に従って追及するという手段をあまり好まない。逆に、一部の権利を放棄してでも、情を選び、周りとの社会関係の改善を望む。農民工のこのような伝統的な意識と低い文化的教養により、工業社会の需要に応じた現代の法治観念は、彼らにとって納得し難い。そのため、現代工業社会における農民工は、伝統方式によって自身の利益を守れないだけでなく、法律によって自身の権益を保護することもできない。
 2.4.2文化的教育が劣っているため、農民工の権益が損なわれる場合がある
 経済的基礎が社会地位を決定する。そのため、農民工は低収入であり、社会地位が低く、その社会地位の低さにより、教養面においても低い地位においやられている。農民工はその教養水準の低さにより、従事する職種、業種、部門も彼らの権利を侵害しやすいものとなる。農民工も一つの商品である。その商品価値は価値法則に影響され、商品の質と量が価格を決定する。こうした農民工の労働力の価格は、社会地位をも規定するものであるが、こうした価格形成には権益保護問題も含まれている。まず、農民工の労働力の数は膨大で、需要量を超えている。また、教養水準が低いため、質が低い。人々は、貴重品なら大事にするが、安物(農民工)に対しては敬意を払わない。

3.農民工の権益保障対策に関する研究
 農民工は、私たちの生活の中で不可欠な部分で、私たちの兄弟姉妹であり、彼らの発展への注目は私たち自身の発展への注目と同じである。農民工の権益保障の問題に対して、私たちは積極的な態度をとらなければならず、農民工が直面している問題について、柔軟でダイナミックで発展的な目線で考え解決を図るべきである。農民工の全ての権利を守り、農民工を完全な国民待遇へ戻す必要がある。前述の農民工問題が起こった本質的な原因に対して、以下の対策を提案する。

 3.1 農民工自身の素質を高め、権利保護能力を高める
 3.1.1農民工の現代的な考え方を育成し、農民工の職業技能を引き上げ続けること
 農民工が、自動的に都市部に融合し、自動的に真の都市市民となることはない。彼らの観念を変え、彼らの素質を引き上げなければならない。しかしそのためには、都市に流入した農民工に対する育成教育だけではなく、農民工の現代思想意識・観念を育成することが更に重要である。市場経済体制において、農民工は元来の保守思想を捨てるべきであり、自己の創新意識を高め、環境の変化に適応すると同時に、自己の職業技能を高めることに強い認識を持たなければならない。
 3.1.2 農民工の法律意識引き上げと組織化の強化
 中国のような、有効な権力制約と市場実践経験が乏しい社会では、政府の利益と企業主の利益に本質的な対立がないため、政府の農民工の権益に対する保護強度は弱くなりやすい。政府の一部の職員も、利益を追求して企業主と同じ立場に立つ事が避けられない。そのため、農民工と企業主の利益が対立している限り、農民工の権益保護は、政府に頼ることはできない。したがって宣伝や広報を強化することで、農民工自身の自己権益保護意識を引き上げる対策をとるべきである。農民工は、法律上さまざまな権利が与えられたけれども、彼らが実際にこれらの権利を行使する時には、いろいろな心配事が浮上する。しかも、農民工が個人として企業と対峙する時、力は有限であり、労働組合の力も強くない。このような状況を打破するため、農民工は自分たちの社会団体組織、例えば農民工協会等を成立させ、自分自身の利益を守る能力を強化するべきである。

 3.2 各種の政策制度を強化し続け、完全なものにする
 3.2.1農民工の特徴に合った社会保障システムの制定
 社会保障は社会の「安定剤」、「安全弁」であり、社会的弱者を守る最後の砦である。中国は、社会保障の効果を重視しつつあり、しかも大きな進歩を遂げたが、現在でも社会保障の普及率はまだ低く、都市部に流入した農民工には有効な社会保障制度が適用されることがなく、国家規定の社会保障制度から排除されている。そのため、中国の社会保障制度の普及を推進すべきで、農民工にも適用される社会保障システムを制定すべきである。
 3.2.2農民工に向けた社会保険制度を制定する
 迅速に農民工傷害保険制度を制定し、また、都市農民工医療保険、生育保険、失業保険、養老保険を分けて制定し、その後、農民工に対する総合保険制度を制定、完備する。
 3.2.3現行の教育制度の改革、新たな教育政策の制定
 農民工の子女が教育を受ける権利を保証し、流動農民工子女の教育問題を解決する。本質的に言えば、義務教育財政制度、公共教育資源配置モデル、入学制度を含む現在の義務教育制度を改革し、戸籍が入学条件という制限を取消し、大学入試に参加する農民工子女に対しては、本籍地でのみ試験を受けられるという現行制度を改訂すべきである。

 3.3 伝統観念の更新
 3.3.1 国家事務管理者の観念を変える
 国家事務管理者として、「都市部重視、農村軽視」という古い考え方や、農業を都市の過剰労働力を吸収するスポンジ、或いは労働力を貯蔵する蓄電池とみなす考え方を捨て、農村住民が都市住民になるという必然的な趨勢を認め、農村人口の都市への流入を正しく認識すべきである。市場経済体制における国家事務管理者として、最高管理者はもちろん、一般行政管理人はすべて、社会的弱者に対する共感を持ち人間が社会の基礎であるという観念を樹立すべきである。ヒューマニズムを国家事務管理の指導思想とし、同時に行政管理者の社会的責任感を強化するべきである。こうすることで、農民工問題を見る時、冷静な頭で、客観的な態度を保つことができる。
 3.3.2 都市住民の観念を変えること
 都市住民は確実に自分の観念を変え、農民工を尊重し、彼らの人格や価値を認め、欠点を許し、彼らの生活に注意を払うよう努め、彼らの実際の困難はもちろん、生活上の些細な問題をも助けるべきである。

4.戸籍制度改革のスピート3を加速させること
 都市と農村の二元経済構造の束縛を早急に打破し、「戸籍特権」を廃止し、「農業戸籍」「非農業戸籍」というの呼称を禁じ、市民と農民を併せた「公民」という呼称にすべきである。国家の関係部門が新たな戸籍管理制度を迅速に制定し、常住地登録戸籍管理を、人間を中心とする戸籍管理に変え、公民が身分証明書を持てば全国どこにでも行ける人口流動や移転を認めるような新たなシステムにすべきである。戸籍に関する各種の付加条件を取消し、戸籍制度改革を行い、公民の移動の自由と居住の自由が実現されるべきである。農民工の労働と人口移動の条件を整えれば、都市と農村の建設の促進と労働者資源の合理的配置が可能となり、公民の合法権益を合理的に保証することができ、社会主義的平等を体現することもできる。
 以上述べてきたように、農民工は元々農民であるが、農民と異なり、かといって都市住民のように扱われているわけではない。したがって、今後の農民工のありかたとして、名誉、地位、効用、待遇、問題、制度等もとし住民や他の従業員と統一し、同等にするべきである。これは農民工が本来の権利を取り戻す鍵であるだけでなく、理性的に農民工を認識する核心でもある。


 1 陳雪原、高祥、「新时期我国“三农”问题的多维透视——中国经济学会2007年学术研理会综述」、『农业经济问』、2007(11)、95-98
 2 卢黎霞、李富田、「农民“下岗”去哪里?」、『农村经济』、2007(7)、118-119
 3 陳宗勝、『发展经济学』、上海復旦大学出版社、2001、1-50