中医~中国伝統医療 鍼の威力~
 この度9月上旬から20日間ほど寧夏と吉林省で調査研究を行った。調査そのものはほぼ順調だったが、困ったことに腰痛になってしまった。残暑の日本を出発したが、寧夏南部山区は標高が1500~2000メートルもあり、調査地では肌寒いほどだった。日頃の不摂生がたたったのか、夏服しかもっていなくて急激な温度変化に順応しきれなかったのか、持病の腰痛(ぎっくり腰)が出てきた。なった方なら分かると思うが、寝ても座っても姿勢を変えると痛みが走るし、一人では腰砕けで歩けないし、車の振動もこたえるしで、調査隊の皆さんには大変なご迷惑をおかけした。
 現地案内をお願いしていた彭陽県庁のZさんのアドバイスで、まずは彭陽県で鍼をしてもらうことになった。結局旅行の間、4回の鍼(彭陽県、銀川市で各1回、延吉市で2回)と現地調達のコルセット(空港のボディチェックの度に外さねばならないので大変)と湿布薬(漢方薬の臭いがプンプンで効きそうな感じ)で何とか凌いだ。
 そういう訳で中国伝統の鍼を紹介したいと思う。中医医院は地方都市以上なら必ず存在し、地元の中高年の患者さんで結構にぎわっている。日本では鍼灸院というと比較的小さな医院であるが、中医医院は7、8階建ての立派な構えの大病院で安心できそうである。そういえば15年ほど前に、雲南省とミャンマーとの国境の町での調査の際にも腰痛になった。この時は中国式按摩が良かろうということで、商店街の裏通りに小さな店を構える盲目の按摩師にレスリングの寝技のような按摩をしてもらった。かなり不安だったが、そのうちに良くなっていたという記憶がある。
鍼(前回の治療の吸盤の痕が残っている)
 さて中医だが、私は中国語が出来ないので、『触られたら「トン(痛い)」か「ブトン(痛くない)」と答えてください』と、調査隊の中国人学生W君に言われて、診察中は「トン」「ブトン」で通した。次は「トン」の診立てに従ってツボに鍼を打つ。鍼は20本以上と多い。鍼そのものを振動させたり電極をつなぐなりして刺激しながら、電熱を照射するという方法で約1時間の治療である。鍼は日本のものより少し長く、結構深く打つようである。鍼の後は吸盤(ガラス瓶内の空気を暖めて患部に吸着する)である。10個余りのガラス瓶を十数分間患部にくっつけて待つ。その効能は血行促進だそうだが、結構きつい。シュポンと外してもらうと痕がつくが、患部には暫らく赤い痕が残るそうである。成程痛みを感じるところの痕はなかなか消えず納得した。


吸盤(笑うと瓶がカチャカチャと鳴る)
 鍼の治療代は病院により異なり、50~70元(約600~840円)で日本に比べれば安いが、中国の平価感覚ではやや高目であろう。同じ病院でも先生により診察料が異なり、倍半分の差がある。経験や実績の差だろうか。壁に顔写真と経歴と診察料の一覧が貼ってあり、そこから選ぶのである。また診察料・治療代とも前払いが原則である。ベッドは幅が狭くてやや高く、痛い時は登ってうつ伏せになるのがちょっと厳しい。ベッドの間の衝立はないところもあり、隣でおしりを半分出して治療している人がいたりで、かなりオープンな印象である。
 治療後はすっと真っ直ぐに立てるようになったが、しばらくすると再び腰が曲がってしまう。しかし何回か鍼をしてもらううちに改善していくのがわかる。こういう状態で飛行機やクルマやバスに乗り、着陸時や道路の凸凹に腰を浮かせるなどして身構えるようにしてきた。しかし日程の最後はかなり良くなって、当初の予定通り中朝国境の長白山(白頭山、約2600メートル)にも行けたのである。本当に中国数千年の伝統医療の威力である。

 お世話になった先生方にこの場を借りて御礼を申し上げたい。また調査隊の皆さん、研究所の皆さんにもご心配をおかけした。ありがとうございました。

 以上は中国でぎっくり腰になっても、中医のお蔭で何とか大丈夫だったという話である。但し鍼の効き目には個人差があると思われるので、持病のある人は万全の用意をお忘れなく。


銀川市 寧夏中医研究院 治療していただいた白延平先生


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