「春の”雪”も油より貴重」?

 今年の寧夏・銀川市(平均海抜高1,100m)の冬は、マイナス20度以下の日が1月中旬から春節が終わる頃まで続き、大変寒かった。珍しく多く降った雪も、日陰ではいつまでも厚く凍ったままであった。しかし、3月1日に日本からの調査団が到着する頃には、急に春らしくなり、昼間はコートも必要ないくらいの陽気となった(とはいえ、相変わらず池の氷はその上で釣りをしても大丈夫なほど厚いままであったが)。 調査団が来る前の情報として、防寒対策をお願いしていたのであるが、予想がまったく外れ、申し訳ないような状態となってしまったのである。
 日本からの調査団と寧夏国際共同研究所は、合同でマイクロバスを仕立て南部山区に向かった。その途中で中衛市(平均海抜高は銀川と大差ない)において各地を調査・視察したが、中衛市においても軽装で十分という状態であった。
 ところが、中衛市から南部山区の中心地である固原市原州区(海抜高1,500~2,933m)に移動する途中から降り出した雨は、固原市に着く頃には霙(みぞれ)から雪に代わり、風景は白一色となっていった(南部山区の黄土高原地域では、平均海抜高が2,000m前後のところが多いので、100mで0.6度気温が下がるとすれば銀川や中衛との温度差は5~6度あることになる)。
 水分の多いべチャべチャした雪ではあったが、ホテルの食堂へ行くのも、雪が降る中を注意深く歩かなければ滑って転びそうになるほど積もっていた。
 夕食をとりながらの対談の中で、降り出した雪が話題になり、われわれの農作物に良くない影響があるのでは、という心配の声に対し、固原市の副市長からは、今(春)の雪は大変よいのだという答えがあった。それで思い出したのが、寧夏の南部山区では、「春の雨は油より貴重」という言葉があるということであった。それくらい春先の播種時期の水分が重要な意味を持つということを表現しているのである。 種をまいても芽が出ず、収穫皆無ということもしばしばあるのだという。もちろん、寒さが厳しすぎれば、水分があっても発芽できないのであろうが、良くしたもので、雪が降ったあともそれほど寒くないのである。降った雪はすぐに溶け、畑を潤すことになるのであろう。
 副市長の言葉から、われわれは、春に限らずいつも適度に雨が降るという恵まれた国に住むものには想像も出来ない厳しさの一端を実感したのであった。
 南部山区からの帰り道、高速道路の両側に見える農作業風景は、今年の作柄を予想してか楽しげに見えたのは、気のせいであろうか。 銀川に帰ると、すっかり春の陽気であり、池の氷も溶けはじめているようであった。

(文責:井口)

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